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7 もう一つの疑惑

 7 もう一つの疑惑

 しかし、何も聞いて居無かった筈なのに、今の話の中に出て来たゴムボートの色を何と無く思い出した様な……違う様な……錯覚にも似た感じだけど、黒色だと強く思った潮平春泉が、其の事を七類尚子に話そうとした時
「実は、私が追って居る冤罪事件には、もう一つの疑惑が有って、抑々(そもそも)皆坏事件の被害者とされる幼女は、雨笠鈴子(あまがさ すずこ)7才と、方丈 燿 (ほうじょう ひかり)7才と、針淵絵浬(はりふち えり)7才の三人だけど……最初に行方不明に成った雨笠鈴子と、次にアタゲ岬で絞殺後遺棄された状態で見付かった、方丈 燿 の事件には、不穏な噂が囁かれてて……実は或時期、某国が幼女を拉致してたと言われてて、全国でも何人もの行方不明者が、居るのよ」
 と七類尚子は、酔った勢いなのか突然意味深な話を始めたので
「一寸こんな所で、そんな話をして、大丈夫なの」
 と潮平春泉は、警戒し乍言ったが
「大丈夫よ……某国人の首謀者は、国外に逃亡してるし、関係して居た暴力団も勢力争いの抗争で壊滅してて……其の時、拉致事件を仕切って居たとされる暴力団幹部もヒットマンに射殺されてるから、シンジケート的には、全て終わったって感じかな……」
 と他人事の様に七類尚子は、言ったが
「でも、生き残りと言うか、残党が居て秘密を守る為に……」
 と潮平春泉が言い掛けたが
「抗争事件で何人も刑務所送りにした警察は、其れで満足してるから、今更捜査を如何こうし様と思わない様に……残った、ひとたち(匪徒達)も、事件を蒸し返す因り、知らん振りしてた方が絶対有利でしょ……核心部を炙(あぶ)り出して事件の根本を抉(えぐ)る位の事をしない限り心配無いよ」
 と面倒臭そうに七類尚子は、言ったが納得が行かない潮平春泉が
「だから首謀者が舞い戻って来るとか……色々有るかも知れ無いんじゃ……」
 と言い掛けたが七類尚子は
「もう一度戻って来たって、繋がってた組織は、壊滅してるから全て遣り直しに成るでしょ……何で昔の事に拘る意味が有る訳?……只、何時も思うけど、本当に悪い奴等を警察が捕まえてるとは、迚(とて)も思えないって言うか」
 と言い掛けた処で一旦言葉を切ったが続けて
「特に特捜部の捜査なんて、ボクシングじゃ無くてプロレス見たいって感じるのは、幾つか有る重大事件の中から、社会的に見て影響が大きいと判断した物を選択して捜査してるとか、公言してるからで……」
 と言い掛けた七類尚子が言葉を緩めた瞬間
「だから一番悪い奴を警察が捕まえて……」
 と潮平春泉が口を挟んだが七類尚子は、
「だから……プロレス見たいに半分ショーで、捕まる方も捕まえる方も裏で繋がってるとしたら……特に特捜部が大捕物見たいに検挙する事件は、何か八百長臭いわよね」
 と言い切った後、一呼吸置いて
「結局本当に悪い奴等の尻尾切り位しか捕まえられない警察が一番恐れてるのは、民衆が暴徒化する事で、犯人逮捕は、警察の力を国民に見せ付けて……結局、治安維持が警察の一番の目的だと思う訳」
 と七類尚子は、さらりと流した。


更新日:2022-06-26 00:27:47

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