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4 忘れ去られた記憶
4 忘れ去られた記憶
怖がりの潮平春泉を皆坏海岸の駐車場で降ろした七類尚子は、やっと聞き出した死刑執行済の士堅大姿(したて まさたか)と其の隣に在る金札令昧子(かねふだ れみこ)の家に行って見る事にした。皆坏港の近くの防波堤に寄添う様に車を停めて軒下を潜る様に抜けた裏道から更に奥に入る為の細い道沿いに、士堅大姿が住んで居た家と金札令昧子が住んで居た家が在ると聞いたが、軽自動車しか抜けられ其の先には、空地しか無かった。
冤罪事件として無罪を訴え続けて居た士堅大姿の妻も既に他界して居て、一人息子は、事件との関係を拒絶し故郷を捨て去った今、残された物は、何も無かった。そして、士堅大姿が逮捕される切っ掛けに成った、噂を流し、犯行を仄めかす供述をした金札令昧子は、一人娘の金札令賀(かねふだ れいか)が住む金沢市内に在る老人擁護施設に移って行ったが、去年他界して居て、士堅大姿の隣に在った家も取り壊され今は、無かった。
「車も人も出入りするには、金札令昧子の家の前を通るしか無い訳ね……昔の建物なら壁も薄いから、隣の音も筒抜けだったろうし、腰を悪くして働け無かった士堅大姿の事を、近所中に面白可笑しく悪意を込めて、触れ回ってたんだ……」
とボソッと呟いた七類尚子は、更に
「周辺の噂を頼りに、犯人有りきの捜査しか出来ない……のね」
と呟いたが、此の場所に真相は、何一つ残って居なかった。視線を上げた七類尚子が見上げた空には、雲一つ無く……
「信頼性に疑問が有るDNA鑑定と、試料を使い切る不自然さや、再捜査する度に出て来る証拠に必ず付着して居た被害者の血液……何もかも捏造された事が明らかなのに立証出来ない」
と誰かに問い掛ける様に、言葉を漏らした七類尚子だったが、只虚しかった。そして、何かを恐れる様に、異例の早さで執行された死刑が、警察権力と司法の闇を物語って居た。
死体遺棄現場に繋がる林道で
「士堅大姿が所有する軽自動車に似た車を見掛けたが、中の人迄は、見て取れなかった」
と届出た人物の証言が、聴取を重ねる度に鮮明さを増して来る事の違和感……すれ違い様にほんの数秒視線を向けただけなのに些細な車の傷や、本来見えない筈の裏側の凹み迄詳細に供述する事こそが、疑わしい……警察が用意した台詞を喋らされたとしか思え無い……開示されない捜査日報には、毎日事件が順序良く整然と進展する様が綴られている筈……だけど善意の心算だった目撃証人も、冤罪の噂が囁かれると世間の吊るし者にされ、今は、消息も辿れない。
只、裁判の時、被疑者と初対面だったと思われる事件車両の目撃証人が、困惑や過ちにも似た狼狽した表情を隠せなかった事を大勢の人が目撃して居る。
「私も彼女に心霊関係からのアプローチを頼もうかな……」
と今分かって居る事実を思い返し乍、七類尚子は、小声で呟いた……後
「さっき通った林道の何処かが事件車両の目撃現場の筈だけど……」
とうつ向き気味に視線を落として居た七類尚子は、顔を上げると
「でも、彼女が嫌がったのは、死体遺棄現場だけ……何故か公開されていないけど……事件車両が目撃されたとされる場所を確かに通り抜けた筈なのに……彼女に霊感が有るんだったら」
と呟いた七類尚子は、自分の車へと急ぎ足で戻った。
怖がりの潮平春泉を皆坏海岸の駐車場で降ろした七類尚子は、やっと聞き出した死刑執行済の士堅大姿(したて まさたか)と其の隣に在る金札令昧子(かねふだ れみこ)の家に行って見る事にした。皆坏港の近くの防波堤に寄添う様に車を停めて軒下を潜る様に抜けた裏道から更に奥に入る為の細い道沿いに、士堅大姿が住んで居た家と金札令昧子が住んで居た家が在ると聞いたが、軽自動車しか抜けられ其の先には、空地しか無かった。
冤罪事件として無罪を訴え続けて居た士堅大姿の妻も既に他界して居て、一人息子は、事件との関係を拒絶し故郷を捨て去った今、残された物は、何も無かった。そして、士堅大姿が逮捕される切っ掛けに成った、噂を流し、犯行を仄めかす供述をした金札令昧子は、一人娘の金札令賀(かねふだ れいか)が住む金沢市内に在る老人擁護施設に移って行ったが、去年他界して居て、士堅大姿の隣に在った家も取り壊され今は、無かった。
「車も人も出入りするには、金札令昧子の家の前を通るしか無い訳ね……昔の建物なら壁も薄いから、隣の音も筒抜けだったろうし、腰を悪くして働け無かった士堅大姿の事を、近所中に面白可笑しく悪意を込めて、触れ回ってたんだ……」
とボソッと呟いた七類尚子は、更に
「周辺の噂を頼りに、犯人有りきの捜査しか出来ない……のね」
と呟いたが、此の場所に真相は、何一つ残って居なかった。視線を上げた七類尚子が見上げた空には、雲一つ無く……
「信頼性に疑問が有るDNA鑑定と、試料を使い切る不自然さや、再捜査する度に出て来る証拠に必ず付着して居た被害者の血液……何もかも捏造された事が明らかなのに立証出来ない」
と誰かに問い掛ける様に、言葉を漏らした七類尚子だったが、只虚しかった。そして、何かを恐れる様に、異例の早さで執行された死刑が、警察権力と司法の闇を物語って居た。
死体遺棄現場に繋がる林道で
「士堅大姿が所有する軽自動車に似た車を見掛けたが、中の人迄は、見て取れなかった」
と届出た人物の証言が、聴取を重ねる度に鮮明さを増して来る事の違和感……すれ違い様にほんの数秒視線を向けただけなのに些細な車の傷や、本来見えない筈の裏側の凹み迄詳細に供述する事こそが、疑わしい……警察が用意した台詞を喋らされたとしか思え無い……開示されない捜査日報には、毎日事件が順序良く整然と進展する様が綴られている筈……だけど善意の心算だった目撃証人も、冤罪の噂が囁かれると世間の吊るし者にされ、今は、消息も辿れない。
只、裁判の時、被疑者と初対面だったと思われる事件車両の目撃証人が、困惑や過ちにも似た狼狽した表情を隠せなかった事を大勢の人が目撃して居る。
「私も彼女に心霊関係からのアプローチを頼もうかな……」
と今分かって居る事実を思い返し乍、七類尚子は、小声で呟いた……後
「さっき通った林道の何処かが事件車両の目撃現場の筈だけど……」
とうつ向き気味に視線を落として居た七類尚子は、顔を上げると
「でも、彼女が嫌がったのは、死体遺棄現場だけ……何故か公開されていないけど……事件車両が目撃されたとされる場所を確かに通り抜けた筈なのに……彼女に霊感が有るんだったら」
と呟いた七類尚子は、自分の車へと急ぎ足で戻った。
更新日:2022-06-05 05:39:00