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1話 仲良くなろう

ある晴れた日。一人の青年が、桜並木の近くにあるカフェを訪れる。

「いらっしゃいませ。お好きなお席にどうぞ。」

店員にそう言われると、青年は一度辺りを見渡してから壁側のカウンター席に行くと鞄を床に下ろし着ていた黒色の上着を椅子の背もたれに掛けてから座るのと同時に店員が水とおしぼりを青年の目の前に置き、人懐こい笑みを浮かべながら「ご注文はお決まりですか?」と声を掛ける。青年は、一度店員を見てから「ホットコーヒーと卵サンドとハムサンドを一つずつ。」と店に入る前から決めていた注文を店員に言うと、店員は「かしこまりました。」と言ってからその場を後にして厨房へ注文を通しに行った。青年は、一息つくと携帯をズボンのポケットから取り出し大事なメールがきていないか一通り確認してから、直ぐに返事を返さないといけない順から返事を打ち送信していく。
 返信を細々としているうちに、先程頼んだものが運ばれてきたので青年は携帯の画面を裏返しに置いてから運んできてくれた店員さんにぺこりと頭を下げる。店員さんは、また人懐こい笑みを浮かべながらレシートを邪魔にならないところに置いて「ごゆっくり。」というとレジの方へと戻っていった。青年は一度座り直すと手を合わせ小さな声で「頂きます。」と言うと、卵サンドを一口頬張ると美味しそうに目を細めながらゆっくり咀嚼していく。ふわふわなパン生地に少し甘めな卵が絶妙に合っているしコーヒーとの相性も抜群なんよなと思いながらいつも頼む卵サンドを食べきると、一口コーヒーを飲んでから初めて頼んだハムサンドを手にする。一度じっくり見てからぱくりとハムサンドを食べると、青年の目はキラキラを輝いた。何で今まで頼んでいなかったんだろうと言いたげな顔をしながらも美味しそうに食べ進めていく。そんな青年を横目で見ながら空いている席の片付けをしているのはこの店の店長だ。店長は、自分の店に来てはいつも美味しそうに食べてくれるこの青年のことをよく思っていて時々サービスをするようになり、今日は、サービスはしていないがこれからも少しだけサービスをしてあげようと思っていると、青年と目が合ったのでゆっくりと目を寄らすも見ていたことがバレたかもしれないと思うと少し恥ずかしくなり顔を赤くしながら厨房へ空いた食器を運んでいく。
 青年は、その店長の後ろ姿を見ては可愛ええなと思いながら残り一口になったハムサンドを口に放り込みまたゆっくり味わう様に咀嚼していき、ハムサンドが口の中からなくなると少し冷めてしまったコーヒーを口に含み口の中でコーヒーの苦味や甘さを感じながら飲み込み、後味のスッキリとした感覚に笑みを浮かべながら更にコーヒーの匂いも楽しむ。ここのコーヒーは苦さの中に甘酸っぱさがあるから好きやなと思いながらもコーヒーを飲み干し、最後に小さな声で「御馳走様でした。」と言うと席から立ち上がり椅子に掛けていた上着を手に取り袖に腕を通してから床に置いてある鞄を持ち上げ机の上に置いてあるレシートを忘れずに持ってレジへと向かう。レジに着くと店長にレシートを渡した後、鞄の中に入っている財布を取り出し店長から言われた金額を丁度支払ってから「また来ます。」と告げてから店を後にした。

 それから数日後。青年は、桜が舞う道を機嫌良く馴染みの店である“桜花《おうか》”に向かって歩いている。
 桜花にもう少しで着きそうだというところで携帯の着信音が鳴ると青年は小さく溜め息を吐く。昼休憩中に会社から電話が掛かってくるなんてと思いながらもその電話に出ると、開口一番に「戻ってこい。」と言われた為青年は眉間に皺を寄せ不満そうにしつつもその言葉に対しやや不機嫌そうに「分かりました。」と伝えると、機嫌良く歩いて来た道を渋々引き返し会社に戻っていった。
 退社時刻になると青年は、上司に引き止められる前に会社から出ていき桜花へと急いで向かう。急いで行かんと俺の癒しがおらんなると思いながら走る。だが、無常にも時間は進んでいく。あと少しというところで、桜花の営業時刻が終わる。

「…もう、最悪や。…あのクソハゲ上司、一生恨んだるっ!」

小さな声でそう呟き肩を落としながら家に向かって歩いていると、見たことがある後ろ姿が見えると一度立ち止まり小首を傾げあの後ろ姿が誰のものか考えれば直ぐに桜花の店長のものだと気付けば、一目散に店長のもとに駆けていくその姿はまさにご主人が家に帰ってきた時の愛犬のようだ。
 店長の直ぐ後ろへ来ると青年は、店長に声を掛ける。

更新日:2022-04-19 07:07:58

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