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まだまだ待つ

「初めまして、橘さん。担当の矢島です。よろしくお願いします」
 人当たりのいい三十代半ばほどの医師は、笑みを絶やさずに自己紹介をした。
「あ、橘です。よろしくお願いします」
 若い男性医師に診察されることに抵抗を覚えた加奈子だったが、ここでそれを言い出すと、また待つことになるのだろう。そう考えるといまさら女医がいいとは言えなかった。
「診断書を拝見しました。あまり良い状態とは言えませんね。とりあえず検査をしましょう」
「検査結果はまた一週間待つのでしょうか?」
 加奈子の問いに
「とりあえず細胞診と血液検査ですね。内診をしましょう」
 内診室に入りエコーを受ける。
 うーんと、医師はうなっている。
「そんなに悪いんでしょうか?」
 加奈子は不安だ。
「いえ。エコーだけでは判断できません。細胞を取りましょう」
 ガリっという痛み。加奈子は顔をしかめた。体の中を削られるような痛みだ。
「血液検査を受けに検査課に行ってください。それが終わったらここの待合で待っていてくださいね。一時間ほどで結果が出ます。ご家族はいらっしゃってますか?」
「はい。主人が一緒に」
「では、結果の説明の時は一緒に聞いてください」
「わかりました。失礼します」
 加奈子は診察室を出ると雄一に話しかけた。
「今、細胞診ていうのをしたの。これから血液検査に行って、それの結果が、大体一時間ぐらいで出るから、そうしたら一緒に説明を聞いてくださいって」
「まだ一時間もかかるのかよ。もう十時半だぞ。いつまで待てばいいんだよ」
 雄一はスマホから顔を上げようとしない。
「もう少しだから。結果が出たらそれで終わり」
 加奈子は言って、検査課に向かった。

 

更新日:2022-03-31 15:01:01

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