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病気じゃない

「結局、原因は分かったのか?」
 ビールを飲みながら雄一がきいてくる。
「まだ分からないの。検査結果が出てからだって」
「検査検査って、生理なんて病気じゃないだろう。誰にだってあるんだから。お前の甘えだ」
「甘えであんなに出血しないわ」
 加奈子が言うと、
「たまたまだろ、たまたま。誰だって多少は痛いものだろう。お前が大げさなだけだ。おふくろもそう言ってた」
「ちょっと、お義母さんに言ったの? 止めてよ。余計なこと言わないで」
「何が余計なことだよ。会社に遅刻してまで病院に連れて行ってやったんだぞ。それほどのこと、報告しないと」
 雄一が当たり前のように言うのを聞いて、加奈子は聞こえないように小さくため息をついた。
 いつもこうだ。雄一はどんなに些細なことでも、夫婦のことを母親に報告する。マザコンというわけではないだろうが、母親の意見は必要らしい。
「とにかくお義母さんにはだまってて」
「早く孫が見たいってさ」
「そんなこと言われてもそう都合よくできないわ」
「結婚してもう三年だろう。まだなのかって、顔を見るといわれるよ。それなのにこんなことになって」
「調べたんだけど、子宮内膜症か、子宮筋腫じゃないかって思うの」
「なんだそれ?」
「どっちも、生理が重くなるんだって。今度行ったら訊いてみようと思う」
「そうしろ、もう寝るぞ」
 言って雄一はビールを一息に飲み干し寝室へと向かった。
 加奈子はもう一度ため息をついて雄一を追った。

更新日:2022-03-21 15:24:14

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