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すべての始まり


 それは大量の出血からだった。

「なにこれ! 血まみれじゃない!」
 加奈子は思わず叫んだ。
 ベッドが血の海だった。
 確かに昨日から生理だった。だけどこれはいったい……。
 小さな子がおねしょしたくらいの血の海がベッドにできている。加奈子の寝間着も血まみれだった。
「痛い……」
 思い出したように下腹部に痛みが来た。その場にうずくまる。
 その間も止まることなく出血し続け、床に血だまりを作っていく。
 時計を見ると8時だった。病院へ行かないと。それが頭に浮かぶ。でも、生理の出血が多いだけで病院に行くなんておかしくないだろうか? それにこの状態で行けるだろうか?
 救急車?
 単語が頭に浮かぶが、ばかばかしいと振り払った。
「どうしたんだ加奈子!」
 夫の雄一が叫ぶが加奈子には答えられない。
「何があったんだ?」
「わからない……。血がたくさん出てて、痛い」
 痛みから加奈子の額に脂汗が浮かぶ。
「とにかく着替えよう。シャワーを……」
 半ば這いずるように浴室に向かった加奈子だったが、出血は止まってくれない。
 服を脱ぎ浴室の椅子に座ると、加奈子は膣の中まで指を入れて洗った。真っ赤なかたまりがいくつも出てくる。こんなことは初めてだった。

 洗ったおかげか出血は少し収まったので夜用ナプキンを二枚重ねにしてつけ着替えた。痛みは治まらない。
「痛み止めは飲むか?」
 雄一が薬を持ってくる。
 加奈子は一息に痛み止めを飲みこむと息をついた。
「病院行ったほうがいいかな」
「いったほうがいいに決まってる。こんなに血が出るなんておかしいだろう」
 雄一は若干怒りを含んだ口調。
 加奈子はそれには答えず腹部を抱え込むようにして体を折りたたんだ。
 もともと生理は思いほうだ。痛みもひどい。
 だけど今感じる、子宮をぞうきんのように絞られる痛み。
 こんなことは初めてだった。
「近くの産婦人科が9時からだ。そこに行こう」
 雄一が調べてくれたのか声をかけてくる。
 加奈子は痛みをこらえるために唇をかみしめたまま小さくうなずいた。

更新日:2022-03-16 15:24:59

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