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第4章 発 覚

五十嵐邸を午前三時に出て、眠ることもできず、六時になりサイモンはテレビのスイッチを入れた。ちょうどニュースがはじまったところだった。
たばこに火をつけて、すいながら待った。息苦しい感じが胸にあった。
ニュース番組は終わった。
<隅田公園で、若い男の死体が発見された>と、いうニュースはなかった。茂の死体は、まだ誰の眼にもふれず、公園の中にころがっているのか・・・サイモンはそう考えながら、テレビを切った。
「ニュースに出なかったわね、茂さんのこと・・・・」
小泉由香がうしろから声をかけた。彼女はサイモンから至急来て欲しいという電話連絡を受け、朝早くから事務所に飛んで来ていた。
「落ち着かなくてね」
「あなたがやったことは正当防衛なのよ。何人も人を集めて、襲撃しようとした、茂さんていう男が悪いのよ。殺されたって自業自得よ」
七時のニュースで、茂の死体発見が報じられた。サイモンは息を詰めてそれを聞いた。茂の死体は、その朝の六時ごろに、散歩中の夫婦によって発見されたものだった。
その夫婦は、体操をするために公園に足を踏み入れて、死体に眼を留めた。身元はすぐわかった。死体のポケットに、名刺があったし、運転免許証も入っていた。
死体には、顔面や体にいくつもの打撲の痕がついており、頭にも大きな傷があるが、死因や死亡時刻は解剖の結果を待たなければ判らない。死体の周りには踏み荒らされたような足跡が無数に残っていることから、喧嘩などの末に殴り殺されたのではないか、という見方を警察では持っており、現在、現場付近の聞き込みが進められている・・・・。
ニュースのあらましはそういうものだった。いかにも一報という感じの、簡単な内容だった。画面に出た茂の写真は、運転免許証に使われているものらしい。他に、死体が見つかった公園の写真が出ただけだった。
サイモンはニュースが終わると同時に、五十嵐直美に電話した。
「あたしも見たわ、たったいま」
直美のことばは冷静だった。
「警察は、捜査の常道として、茂氏と関わりあった人間のアリバイを一応は調らべるはずだよ。もちろん奥さんだって例外じゃない。まして奥さんは茂氏とは利害関係があるわけだろう」
「利害関係って、どういう?」
「奥さんと茂氏は五十嵐さんの財産を相続する権利を持つ、ただ二人の人間でしょう?」
「ちょっと柴門さん、それどういう意味?」
思いがけない強い口調が返ってきた。
「一般論として言ってるだけです」
「そうね・・・・」
「とにかく、莫大な財産と思える相続人が二人しかいなくて、その一方が死ねば、残った一人の相続分はそれだけ増える。そういう意味で奥さんと茂氏は利害関係があるんだ」
「ひどいことを言うのね。柴門さん。それじゃまるで、あたしが茂さんが死ぬことを望んでいるみたいじゃないの」
「まさか、そういうつもりで言ったんじゃない。警察の眼はそういう眼でみるんだ」
「・・・・わかったわ」
サイモンは落ち着かなかった。朝食を取らなければ、と思いながら食欲はなかった。テーブルの上には直美に事件の解決の謝礼としてもらった一千万円の札束が置かれている。
「何か、作ろうか?」
由香が言った。うしろで声を聴きながらも、サイモンはゆうべの公園での乱闘の様子を、ゆっくり順を追って頭の中でたどってみた。
自分の動きに、一人の男の命を奪うほどの攻撃があった、という気にはどうしてもなかった。

更新日:2022-03-19 17:19:31

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曙探偵事務所 part2 サイモン容疑者になる