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君は僕たちを照らす太陽の花<ゲゲゲの鬼太郎>

挿絵 309*566

 時代錯誤な下駄の音がピタリ、と止まった。黒と黄の縦縞模様が印象的なちゃんちゃんこを身に纏った学童服姿の少年。そんな彼の隻眼に映るのは、燦々と降り注ぐ太陽の陽を一杯に浴びる大輪の向日葵だった。
「…向日葵…か」
 いつ頃からだったろうか、向日葵を見ると、あの人懐っこい少女の笑顔が重なるようになっていた。
『あれから、もう一〇年、か…』
「鬼太郎…?」
 買い物に同伴していた赤いスカートを身に纏う少女のキャッツアイが〝どうしたの? 〟と問うていた。そんな彼女に〝鬼太郎〟と呼ばれた少年は、微かに口角を上げ、何でもない、と力なく首を振る。鬼太郎に先を急かされ、妖怪の住まう森へ再び歩を進めたが、少女には分かっていた。彼が〝あの娘〟を思っていた事を。
 
 妖怪仲間の誰だったか、「あの娘のあの飛びっきりの明るさは、まるで向日葵のようじゃったな」とポツリと一人ごちた言葉に、鬼太郎もねこ娘も妙に納得してしまった。そう、妖怪の世界に突如現れた太陽のような娘。見た目は童でも、四半世紀、いや、もっとそれ以上を生きる鬼太郎を始めとした鬼太郎ファミリーは、たくさんの、それは数えきれない程の出会いと別れを経験してきた。初めての異人種の友達、仄かに恋心を抱いた少女も…――。今となっては、会いたくても、もう会えない人間の方が多い事だろう。

更新日:2022-03-09 15:02:51

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君は僕たちを照らす太陽の花<ゲゲゲの鬼太郎>