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雷っておびえるもの

言い返そうと口を開きかけたとき、轟音と地響きを伴って閃光が走った。
 突然の雷鳴に一瞬体が竦んだが、すぐにラディアンの隣に駆け寄り空を見上げた。
 真っ黒な雲が空一面を覆い、大粒の雨が降り出している。雲の中に、光が見えた。ゴロゴロと聞こえる音に、何だかうきうきしてくる。
「やっぱり降ってきたか……何だか嬉しそうだな、レジェ?」
 窓枠に頬杖を突いて空を見上げる私の肩を、ラディアンは肘掛け代わりに使っている。
 図々しい態度に普段なら苛つくが、今はあまり気にならない。
「雷って大好きなの」
「本当なのか? 普通の女はこんな時、悲鳴を上げたり、抱きついてきたりするんだが……。まあ、レジェは普通じゃないからな」
 嫌味もまったく気にせず、時折光る稲光に目を奪われていた。
 雨足が強くなって風も出てきた。窓から部屋の中に雨が吹き込んで、床が濡れている。
 夢中になって空を眺めていたら、いきなりラディアンに窓から引き剥がされた。濡れた床に滑り、転んでしまった私に見向きもせず、彼は窓を閉めカーテンを引いた。
「酷いじゃない! 何するのよ!」
 濡れた床に座り込んだまま抗議する私の頭を、ラディアンは軽く叩いた。
「まったく何やってんだよ。好きなら好きでいいけど、まわりの状況を考えろ。床だけならともかく、おまえだってずぶぬれじゃないか」
 彼が話している間も、激しい雨音に混じって雷の音が響いている。音に気を取られて、ラディアン話しなど聞いていなかった。
「聞いてないのか、レジェ!」
 雷より遥かに大きな声に、殴られるのではないかと、体が硬くなった。とっさに目をつむってしまう。
 暫くたって、おずおずと目を開くと、真っ正面に薄笑いを浮かべたラディアンがいた。しゃがんで、目線を私に合わせている。
「なんだ、その泣きそうな顔は? 殴られるとでも思ったのか?」
 ラディアンは愉しげな口調。どうやら、本気で怒っているわけじゃないみたい。
 泣きそうな顔をしているつもりはないが、そう見えるのだろうか?
 何となく口惜しい。
 口惜しいから彼の肩を軽く突いた。
 予想どおり、ラディアンは濡れた床に尻餅をついた。
 ぺたんと座り込んだラディアンをけらけらと笑っていると、
「どうしてくれるんだ。俺は着替えもないんだぞ」
 普段よりほんの少し低い声で凄まれた。すっと細めた目が恐い。
 だけどここで謝るのも、しゃくにさわる。
「じゃあ裸でいれば。夏だし、風邪ひくこともない……いたたっ!」
 ラディアンは細めた目のまま、私の髪を力いっぱい引っ張った。口許に笑みを浮かべているのが、一段と恐い。
「俺は裸でいても構わないが、レジェはいいのか? いいんだな。そうか期待されてるなら答えないと……」
 彼は目の前でバサバサと服を脱ぎ始めた。
 信じられない!
 いったい何を考えてるのよ!
 田舎育ちだから、異性の裸でもそれほど恥ずかしくないけど、二人きりとなると話は違う。
「ごめんなさい! もうしませんから許してください!」
 脱いだ服を彼に投げつけ、そっぽ向いたまま、慌てて謝った。
「最初からそうやって素直に謝れよな。それとも、悪い事をしたと思ってないのか?」
「思ってるけど……」
 口をとがらせ、言いよどんでいるうちに、ますます素直に謝れなくなる。
「とにかく着替えてこい。風邪をひくぞ」
 荷物とともに、ラディアンに浴室に放り込まれた。扉が閉まる瞬間、小さく言った「ごめんなさい」に、彼は笑顔を返してくれた。

更新日:2022-03-01 14:02:45

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