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旅の準備は計画的に

 やがてたどり着いた高級そうな宿。おずおずと彼の後について宿に入り……。
 目眩がした。
 きらびやかな内装。豪華な調度品。
 何だか私だけ場違い。出来ることなら逃げ出したい。ラディアンも私も大差のない旅装なのに、何故か私だけがこの場にそぐわない。
 ふと振り返ると、宿の従業員だろうか、そろいの服を着た人たちが私に不躾な視線を送っている。
 何だか嫌な雰囲気。こんな所に泊まりたくないな。
 どことなくよそよそしい従業員に案内された部屋はかなり広く、二階だというのに、手洗いやお風呂までついている。
 一泊いくらだろう?
 私が持っている路銀ではきっと泊まれないだろうな。
「何をしてるの?」
 案内してくれた従業員を部屋から追い出して、ラディアンは扉に指で何か描いている。
「話を聞かれないようにしているんだ。外で立ち聞きされると困るからな」
「ふーん。まあ、何でもいいや。あーあ、疲れた」
 靴を脱ぎ、足を投げ出して長椅子に寝そべった。大した距離じゃなかったけど、精神的に疲れた……。
「そんなところで眠るなよ」
 だらしない格好の私に苦笑しながら、ラディアンは窓の外を眺めている。
「出かけたかったが無理だな。何も持たずに家を出てきたから、旅支度を整えようと思ったんだが……」
「支度って?」
 テーブルに置かれたクッキーなどをつまみつつ聞くと、彼は私をまじまじと見つめた。
「レジェ、やけに荷物が少ないが、ひょっとして、着替えしか入ってないのか?」
 ためらうことなく頷く。
「ジジイが用意してくれた物はどうした!」
 ラディアンが叫んだ。
 王都を出る前の日に、お世話になったサリデスさんが旅支度を調えてくれた。でも、持っていったらいつまでも、王都での出来事を忘れられないように思えて全て置いてきた。
 本当は違う。
 ラディアンのことを忘れたかった。忘れたくて、思い出になるような物は何一つ持って来なかった。
 城門前で彼と再会したときの驚き。
分かってる。彼が私を駆け落ちの相手に選んだのは、私が異形だから。私には見た目の奇怪さ以外何もない。私に対して何の感情も抱いていない。
でもラディアン本人にそうは言えない。
「みんな置いて来ちゃった。かさばるし、重いから。今は、家を出るときに持ってきた着替えがあるだけ」
「路銀は?」
「……少し」
 気まずい雰囲気を和ませようと、照れたように笑った。
「……それでどうやって旅をするつもりだったんだ? ……いや、予想しておくべきだったな。夜道を明かりも持たずに歩くようなレジェに、常識を期待した俺が馬鹿だった。追いかけてきてよかったよ」
 指でこめかみを揉みほぐしながら、ラディアンは呆れたようにしみじみと呟いた。

更新日:2022-02-28 14:26:23

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