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使い魔と腰が抜けて立てない私

 どうやら気づかないうちに、猫と会話をしていた私は注目の的だったみたい。
「黙ってたら分からないだろう? 猫?」
 馬鹿にされそうな気もしたが、黙っていると怒られそうなので、腕に抱いていた猫をラディアンに見せた。
「猫に話しかけていたのか?」
「そうよ。いけないの? 他に話し相手なんかいないじゃない。……いつから聞いていたの?」
「猫に何を相談していたんだ? 俺には言えないことか?」
 質問には答えず、ラディアンは不穏な目つきをしている。
 何をそんなに怒ってるのよー。
『ラディアンだから、余計に言えないことがあるのよ。そうよね、レイジェラーン?』
 …………。
 声がした瞬間、にぎやかな広い通りのこの一角だけが妙に静かになる。
「きゃあああ!」
 誰かの上げた悲鳴に、周りの人が蜘蛛の子を散らしたように逃げ出した。
 猫……?
 猫が……喋った。
 えっ?
「いやあぁ!」
 一拍遅れて叫んで、抱えていた猫を放り出すと、ラディアンの足にしがみついた。
「ね、ね、猫、猫が……」
 唇が震えて言葉にならない。
「ターラ様……。いい加減にして下さい! レジェが怯えているじゃないですか!」
 立ちつくしたままのラディアンが、猫に怒鳴った。
 ラディアンが敬語を使ってる!
 その事を考えても、この猫はただの猫じゃない!
『彼女のことをそんなに気遣うなんて……。噂は本当のようね』
「わざわざからかいに来たんですか? 趣味が悪すぎます。それとも、弟子の幸せを妬んでいるんですか?」
 弟子?
 じゃあ、この人……いや、この猫は……?
「あ、あの……ターラ様って、もしかして王都の、『栄光の学院』の……」
「そう。学長のターラ様だ」
 うんざりしたようにラディアンが言った。
 でも……。どこをどう見ても、猫にしか見えないんだけど……。
「猫、なんですか?」
 我ながら、何だか間抜けな質問。
「ターラ様って猫なの?」
 見上げると、ラディアンが吹き出した。
「そんなわけないだろう。これは使い魔。そこいらにいる動物に魔法をかけて作った、便利な道具のような物だ。今、ターラ様はこの猫を通して、見たり聞いたり、話したりしている。猫になった訳じゃない。分かったか?」
「それって、王都に居ながらにして、この猫がいる場所の事が見えるの? えっ? 聞こえてるの!」
 説明はよく分からなかったが、話しが出来るという事実に、目眩を感じた。私はただの猫だと思って、かなりきわどいことをターラ様に話してしまった。どうしよう……。
「あの……」
『心配しなくても大丈夫。二人だけの秘密ね』
 言いたいことは伝わったらしく、猫の口から出ているとは思えないほど、流暢な返事が返ってきた。
 よかった。
 さっき話したことを、ラディアンに伝えられたら……。
『今は秘密にしておいてあげるけれど、機会があれば話してしまうかもしれないわよ。もっと自分に素直になりなさい』
 ターラ様はちょこんと座って、信じられないことにくすくすと笑った。

更新日:2022-03-06 10:57:15

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