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感じる視線は噂だけじゃないでしょう

 王都を出て半日も歩かないのに、もう隣街が見えて来た。初夏とはいえ陽射しはそれほどきつくない。やわらかく吹き抜けていく風が、私の頬を撫で、隣にいるラディアンの髪を舞上げていく。
 葡萄畑が広がる小高い丘の上。
 眼下にかなり大きな街。
 王都より大きいんじゃないかな?
 三方向にのびる街道と、それを横切る大きな河。巡らせた低い城壁。豊かな森。
 この街の人口の半分は城壁の外に住んで、農作業に従事している。草原を切り取ったような畑と、果樹園。丘の上では羊や牛がのんびりと草を食べている。
 立ち止まって景色を眺める私の隣で、性格は曲がっているが優秀な魔道士ラディアンが、つまらなそうにたたずんでいた。
 ついでに言うと、彼は私との結婚を許されずに家から追い出された、事になっている。
 なっているというのは、狂言だから。
「いつまでここにいるつもりだ? 休むなら、街へ入って宿で休んだ方がいいと思うぜ」
 彼の言うことはもっともなのだが、何となく気が進まない。気後れしていると言ってもいい。人がたくさんいる場所は苦手だ。
 でも、今更そんなこと言ってられない。それに後戻りは出来ない。
「いい加減にしろよ、行くぞ」
 荷物を背負いなおしたラディアンが、むき出しの私の腕を掴んだ。そのまま私を引きずられるようにして歩き出す。
 傍目には、仲良く手をつないで歩く恋人同士に見えるのだろう。通りすがりの人が、冷やかすように笑っている。
 みんな知ってるんだ。
 狂言の信憑性を増すために、王都の城門前で抱き合って口づけまでしてきたのだ。無理矢理されたのだけど。
 噂に乗るようにとの行動だったけど、噂の広がる速さのすさまじさに恐ろしいものを感じるな。
 だって、張本人がここにいるのに、隣街ではすでに私たちのことが噂になっているんだもの。ついさっきすれ違ったおばさんなんて、私たちを目一杯からかっていった。
 全てを犠牲にしてもいいなんて羨ましいね、と。
 他にもいろいろ言われたが、これ以上は恥ずかしくて思い出すのも嫌だ。
 恥ずかしくて、ずっとうつむいたまま歩いている私に比べラディアンは、話しかけてくる人ににこやかに受け答えをしている。その姿は実に愉しそう。
 何を考えてるんだろう? 神経が太いのか、作りが違うのか理解できない。気さくな人柄と言えないことはないだろうけど。いや、開放感かな。貴族のしがらみから抜け出せたことがうれしくて浮かれているのかもしれない。
 歩くうちに、辺りがどんどん賑やかになっていく。王都の城門付近と同じように、たくさんの露天が出ている。
「どうした? 何か欲しいものがあるなら、買ってやろうか?」
 怪訝そうにラディアンに言われるまで、店の前で立ち止まっていることに気づかなかった。
 やはり不安。
 全く知らない街に足を踏み入れるのは、不安でたまらない。
 白髪と金銀異眼の私。
 気味悪がられたり、けなされる事に馴れても、傷つかない訳じゃない。気にしないふりが上手くなっただけ。
「そうじゃないけど、何だか見られてるような気がして……」
 でもそんな思いは口には出さない。
 それに、さっきから視線を感じて仕方ない。心の奥を覗き見されているように鋭い視線を感じる。
「確かに見られてはいるだろうけど、おまえだけが注目されてるわけじゃないさ。気にしすぎだ」
「でも……この髪は目立つし……」
 目の前にはらりと落ちたまっ白な前髪。憂鬱な思いで髪を指に絡めていると、ラディアンに頭を小突かれた。
「自意識過剰すぎるぞ。俺たちが注目されてるのは、レジェの髪の色が目立つせいじゃない」
「それは解ってはいるけど……」
 周りにいる人と言うより、この大陸の人は黒髪が当たり前。そんな中で私の白髪はとにかく目立つ。
 カラスの群に白鷺が紛れ込んでるみたいに。まして、目の色が左右違うのだから。……それにラディアンといると劣等感を刺激される。彼はとても美男だから。緩く波打ったつややかな髪。切れ長の瞳。すらりと通った鼻筋。薄く形のいい唇。うらやましくて妬ましいすべて。
 ほんとにきれいな男だな。

更新日:2022-02-26 14:06:41

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