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第2章 ~転校生~

  キーンコーンカーンコーン
 鈴香は学校に着いて、教室に入った。すると、奈々が声をかけてきた。
「おはよう、鈴香」
「あ、おはよう奈々」
「宿題やった?!」
「やったよー。」
「私まだやってないから見せてー!!」
「えー、また?!」
「お願いっ!!今度からはちゃんとやってくるからさ。」
「しょうがないなぁ。」
「やったぁ!!サンキュッ!!」
 何気ない会話を交わしてから席につく。
 あーあ…。友達だからって宿題を見せるのはその子の力にならないから、本当は見せたくないんだけど。
 でも私たちの友情は、上っ面だけの表面的なもの。ただの付き合いで、本当の友情じゃない。きっとみんな1人になりたくないから、1人になるのが恐いから、つるんでる。もしかしたら、奈々も宿題などを自分に見せてもらうために仲良くしているのかもしれない。
 鈴香に一瞬そんな考えが浮かんだが、それはすぐに打ち消した。いや、それはいくらなんでも……。
 なんだか変だと思いながらも、自分もそんな友情しか育んでいないことに気付く。
「ハァ~…」
 なんとなく自分に苛立った。私もいつの間にかそんな人間になってしまったのだろうか。私だけは違うと思っていたのに。
 人間関係って面倒くさい。私たちのような中学2年生の年頃は特にそうだ。

 そんな考えを鈴香が延々と考えているうちに、先生が教室に入ってきた。
みんなが急いで自分の席に座る。
「はい、じゃあ出席をとります。」
 相変わらず無愛想だ。
 先生は眠そうに名前を読んでいく。先生がやる気なくてどうするんだ、といつも思う。
実際のところこの教師は子供好きではなく、なぜ中学校の教師になったのか不思議なくらいだった。
 どんよりとした重たい空気が押し寄せてくる。
 だが、そんな空気をはね除けるようなオーラを彼女は持っていた。何ものにも汚されないきれいで純粋な心を。当然、本人は気付いていないのだが。

 中学2年生の大橋鈴香は、しっかりとした考えを持っているものの、そういった考えを表にはあまりださない。にぎやかなタイプではないし、そんなに話さないということもあるが、人を傷つけてしまうかもしれないから余計なことは言わないようにしているのだ。それに、相手が頭にくるようなことを言って嫌われでもしたら、大変なことになってしまう。鈴香にそんな勇気はない。だから、友達がいけないこと、悪いことをしても注意ができないのだ。
本当は止めないといけないのに…。本当は正義感の強い鈴香なのに…。いつも心の中で葛藤しながら黙って見ているのだった。 鈴香がボーッとしていると、1人の少女が入ってきた。
 みんなが珍しがって注目している。
「今日からこの学校に転入してきた牧村京子さんです。皆さん仲良くしてあげてくださいね。」
「よろしくお願いします。」
 ザワザワとみんなが口々に思ったことを喋っている。
「それじゃああそこの大橋さんの後ろの席に座って。」
「あ、はい。」
 えっ?!よりによって私の後ろの席?!
 まあ、気が合う子だったらいいんだけど。
 一番後ろの席ではなくなった鈴香は、この転入生にそこまで興味を持ってはいなかった。
 みんなはというと、瞬き一つも惜しむようにその子の行動一つ一つを目で追っている。
 京子が自分の席に向かって歩き出した。
 たくさんの視線がこちら側に集まってくるのが分かった。体に穴が開きそうなくらいだ。
 鈴香も思わずその子を見つめていた。

  ────フッ
 …えっ?!今……?
 彼女が私の横を通った瞬間、何か京子の周りを包んでいる光のようなものの存在を感じた。
 それと同時に、暗い妖気のようなものも感じ取れた。ごくわずかだけれど。
 その光や妖気は一瞬で消え去った。
 さっきのはなんだったんだろう。
 他の人は感じないらしい。なぜ鈴香だけ感じたのだろうか。
 京子ちゃんに授業が終わったらこっそり聞いてみよう。
 鈴香はそう決意してから授業に臨んだ。

更新日:2009-03-04 23:33:21

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