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プロローグ
ドアの内側に立った男は、室内を見渡した。
やり残したことはない。計画通りだ。五月雨の夜であったが、まだ身がすくむほど寒いが、体は熱い。短い髪を撫でると、手の平が汗で濡れた。
[大丈夫だ]と、自分に言い聞かせる。
大変なことをした、という意識はある。
その一方で当然だという気持ちもある。
いや、そう思いこもうと自分を説得した。
[この女は死ぬべきして死んだのだ]死ななくてはならなかったのだ。
罪を犯した人間には罰が必要だし、それは法によってのみ与えられるものではないのだ。いや違う。わたしが法を作ったのだ。
切り取った女の首は、あまり気持ちの良い眺めではなかった。どれほど憤り、悲しみながら死んだとしても、もう襲いかかってくることはない。
恐怖心はなかったが、これほど深く悲しい思いはこれまで経験したことがない。
肩を揺らして溜息をつき、部屋の外に出た。風が頬に吹きつけ、思わず身震いする。遣り残したことはない・・・・・。
月のない暗い夜であった。
闇の中で、男の悪魔のようなひとみが光っていた。
更新日:2023-05-03 20:28:55