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俺だけのご主人様/甘く、蒼い

雨が降っている

俺のご主人様は相変わらずの様子で
きっと一人あのソファに寝転んでいるんだろう
大きな白いクマのぬいぐるみを抱えて

「元気ですか?」
「……元気だよ」
「ご飯は? 食べました?」
「うん。食べたよ」
「Uber行きましょうか」
「……え?」
「行きますから。待っててください」

返事を待たずに切電

遠慮するからさ、きっと
俺は変わらないのに
あなたへの思いはずっと、これからも

「お待たせしました」
ドアを開けたユノはいつになくやつれて
「……早いじゃん」
両手いっぱいに提げた袋を見て目を丸くする
変わってないね、そーいうとこ
わかってたはずなのに

「トーゼンです、開けて」
ドアを開けさせる
袋を、置いて
抱きしめる

「チャン……ミン?」
「俺は元気じゃなかったですよ。心配してくれないんですね」
「心配……なんか」
するわけないだろ、と
言葉にならない言葉を俺が勝手に飲み込む

その後に続く理由を知ってるから
俺たちだけじゃなく、みんなが

やつれた頬に手を添えて
「あの頃はなかなか痩せなかったのに」
言うとユノは呆れたように笑う
「いつの話だよ」
「昔のです。昔だけど全部昨日のことみたいに思い出せる」
口づける
あなたの唇は相変わらず甘い

優しい

「そう……だな」
「食べましょう。メシと……それから」

さらに華奢になった首筋に口づけて
今にも泣きそうなあなたを、押し倒す
あなたはもっと強かったはずだろ
強かったからこそものすごく脆くて

知っているのは
俺だけだったのにな

俺のご主人様
俺だけを愛していることは誰にも言えずに

俺もあなたを、本当はあなただけを愛していることはあなたにしか言えずに
空回り

雨音にかき消される律動と鼓動
体温
あなたを忘れさせてくれない憂い
甘く、蒼い

「好きだよ」
囁いても頷くだけのあなたの
心からの声が、聞きたくて
いつも

「言ってよユノ、好きだって」
「……ん」
突き上げる俺の動きに合わせて眉根を寄せて
緩く開いた唇から吐息だけ

……あなたらしい

言えるかよ、と
小さく聞こえた
わかってる、言わせたいのは俺の我儘

愛しているよ、誰よりも
チョン・ユンホ
俺だけのご主人様

更新日:2022-01-19 19:18:53

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