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あめのひ。

雨足が強くなって俺はなんとなく窓辺に立った。
ここじゃあまり雨の音は聞こえないけど。

ユノと一緒に住んでた頃の家は。
雨の音がよく聞こえてたっけ。

拍手みたいで好きだと、あなたらしいことを言っていた。
今日はどうしているんだろう。
今はどこにいるんだろう。

電話をかけようかと。
思い立ってやめる。
いつまでたっても親離れできない子供。
ひとり苦笑しながら。

響くインターホン。
応答すると。

「チャンミン、これ」
小さなカメラに映るユノ。
両手に下げたビニール袋を持ち上げてアピール。
なんだ、一緒じゃん。
ああ。切りながらそう返事して鍵を開ける。
ユノは満面の笑みで目の前に立った。

「雨が降ってきたからさあ、どうしてるかなと思って」
俺の好きなパン屋のパンがたくさん。
「ああ。ありがとうございます。雨関係ないじゃないですか」
髪が濡れてる。あの店はいつも混むから。
並んだのかもしれない。
ユノが差し出す袋を受け取ってから、タオルを取りに行く。
ソファに座ろうとするユノに「あああー!」と言えば「ん?」て顔してそのまま座った。

服だって濡れてるのに。まあ。
ソファは拭けばいいんだけど。やっぱ。
相変わらずだ。
「言ったでしょ、濡れて帰ってきたならちゃんと拭いてから座ってくださいって」
ユノは飛び跳ねるように立ち上がって照れ笑い。
はいこれ。ありがと。タオルのやりとり。
いつまでたってもずーっと、あなたはあなたのまま。

「チャンミン、そういうけどさあ」
「なんですか」
「帰ってきていいの? ここ。俺遊びに来たんだよ」

寂しそうな表情。ああ。
そうだった。ここは俺んちだ。……でも。
「屁理屈言わない。どこだって同じです。濡れたまま座らないの」
めっ、とふざけて言えば。
ユノは子供みたいに笑う。
自分でグシャグシャと拭いた髪はまだかなり湿ってて。

「シャワー、浴びますか」
「え。いいよ」
本当にそれだけみたいな顔するけど。
わかってるくせに。
「すぐ帰るから。髪が乾いたら」
「服も濡れてる」
「タクシーで帰るし、いいって」

ばか。ほんとにあなたは。
子供みたいだ。

押し倒すと、驚いて目を見開く。
「濡れたいんでしょ、もっと」
責めるように言えば。
ユノは許すように笑った。

雨が降ると、俺はあなたが欲しくなる。
あなたもきっと、俺に抱かれたくなる。


更新日:2022-01-14 13:35:31

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