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たゆたう桃尻

「……らっしゃいませー」
今日も店番。本当はこんなのしたくない。
家業は絶滅危惧種と思われる風呂屋。それも新しいやつじゃない。
昔からある、地元のおっちゃんたちがひとっぷろ浴びに来る風呂屋だ。
この辺の風呂屋は俺んち「シム湯」と隣町とはいえすぐ近くにある「ゆのゆ」の二軒。新しくできるスパに負けず、地道に頑張っている。
俺はこの店の看板息子。「看板娘がよかった」と常連のじじいに言われ続け早10年。
5歳の頃から番頭に立ち、10年経った今では客足もだいぶ遠のいてきたことを実感する。うちもそろそろ閉店の危機だ。俺はそれでもいいと思ってる。
親も後を継ぐことは期待していない。苦労させたくないからと。

「ゆのゆはどうするんだろうなぁ」
「は? 気にしてんのあの店のこと」
「そりゃー、まあ。なぁ母さん」
「そうねえ。あっちも息子さんが頑張ってくれてるんでしょ?」
息子さん。そう聞いてドキッとした。
ゆのゆの息子は俺より一つ年上。顔と名前は知ってはいるが、友達でも何でもない。
偵察に行ったことはあるが、俺のことを知らないらしく爽やかな笑顔で迎えられた。ただ、すぐに他の客にもその笑顔を向けていたんだが。
「ゆのゆの近くに大きなスパができたでしょう? そろそろ廃業するって噂もあるわよ」
「え!」
それはさすがにびっくりだ。
「そうか……うちもな……。常連は大体あの世に行っちまってるからなぁ」
うん。それ言われたら何も言えない。
そっか……廃業か……。明日は我が身と言いながら、なんか可哀想になる。
味噌汁をすすりながら、もう何年も会っていないゆのゆの息子の顔を思い出した。

更新日:2022-01-12 17:34:53

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