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誰より好きなのに

気付けば目で追っている。自分でもよくわからない。

彼女に会うために退社後、駅に向かう。何かを感じて顔を上げれば。
あの人、だ。同じ会社で見かける顔。名前は知らない。

向こうも俺を見てなんとなく知ってる? って顔をする。
俺と同じくらいの背丈、肩幅が広く、頭が極端に小さい。モデルみたいだ。
目はそれほど大きくはない。切れ長で黒目がち。
鼻筋はシュッとしてて、鼻自体は小さい。下唇が肉厚で柔らかそう。

見た目はとにかくクール。
一瞬、目が合ったけど、すぐにそらされた。
そりゃそうだ、知り合いじゃない。
ただ見たことがある気がするだけだ。

駅に向かう俺と、会社に戻ろうとするあの人。
雑踏の中、肩がぶつかるくらいの距離ですれ違った。
鼻をくすぐる甘い香り。近くを通る女性のものだろうか、それくらい。
爽やかな甘さの余韻。

思わず立ち止まる。あの人、だよな。会社に戻るのかと思っていたけど。
女に会っていたんだろうか。振り返り、その背中を見つめてから。
我に返って駅に向かった。

あの人に恋人がいても俺には関係ない。
俺だって今から彼女に会いに行くんだ。
そう、自分に言い聞かせながら。……何故?

更新日:2022-01-08 14:31:38

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