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プライマル

初めての恋は、僕を病気にした。

とても綺麗で、とても優しくて、でも誰にでも優しくて。

八方美人で、尻軽で、あなただけが好きと何度も言ったのに。

誰にでも言っていた。誰とでも寝ていた。僕だけのものでいて欲しかったのに。



ある日彼女の家に行った。サプライズで喜ばせたかった。

鍵は開いていた。小声で名前を呼びながら家に入っていった。

せめて靴でも見つけたら覚悟はできていただろうに。

玄関先は暗くて、目の悪い僕には何も見えない。心の準備が、できていなかった。



変な音が聞こえた。変な声が聞こえた。

彼女の名前を、誰かが呼んでいた。

僕がドアを開けると、彼女と見知らぬ男が、ベッドの中にいて。

彼女は驚いた顔をしていたけれど、男は平気な顔で。

ガキは帰んなと、無視して腰を振り続けた。



衝動的に台所に走った。包丁を持って部屋に戻った。

男を刺そうとして返り討ちに遭った。その後の記憶を、なくした。

更新日:2022-01-07 15:15:12

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