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練習風景 その1

 翌日、さっそくジミイとレミは、医務室へフィリップの見舞いに行った。
 朝や授業の合間は慌ただしかったし、まだ相手が寝ていると思ったので、彼らは昼休みに行ってみた。
 しかしフィリップはまだ眠り続けていて、何か睡眠薬のような物を飲まされた可能性があるそうだった。
 ベッドに横たわる彼はまだ少し顔色が悪く、寝汗のようなものをかいていた。眉が寄せられ、悪い夢でもみているのか苦しそうな様子にも見えた。

 大先生はそんな彼の容体を聞かれて、フームと息を吐き出した。
 「今のところ何とも言えんが、ショックで気を失ったんだな。傷も少ないし」
 ジミイは入院ベッドの左肩に立っていて、その言葉に質問した。
 「ショックって?殴られて倒れたとか、とごかに頭をぶつけたとか?」
 「かすり傷ばかりだから、殴られたというよりは運ばれる途中についた感じじゃな」
 「でも大先生、フィリップは馬屋で動けなくなって倒れてたっていうんですよ。一体どういう事なんですか?歩くのも大変な彼が、馬に乗ろうとしたなんておかしいじゃないですか、そうでしょう?大先生」



 そんなふうにジミイは相手を問い詰めたが、彼と同じぐらい大先生も事情を知らなかった。
 いきなり患者が運び込まれてきて、誰も事情がよくわからないので詳しい説明もされていないのだ。おまけに大きな怪我や内臓損傷はなく、治療の必要もあまりなかった。
 外科や内科の処置なら医者にはお手の物だったが、治療する部分がない患者はただ寝かせておくしか出来なかった。本人の意識が戻らない内は体以外の情報も得られず、何も満足に答えられなかった。
 しかしあまりに畳みかけるようにジミイが質問し続けるので、彼は困ったように返した。
 「ジミイ、そう大先生、大先生とせっつかんでくれ。わしもフィリップにくっついて現地まで行ったわけではないから、はっきりした事は何もわからんのだよ」




 レミはジミイの向かいの右サイド、大先生の立つベッド横の頭側にいた。
 ちなみに2人の少年の服装は、ジミイはブレザーを着た制服姿で、レミはベストを着た制服姿だった。

 ベッドの右肩に一脚だけ置かれた椅子に黙って座っていて、彼はジミイたちの会話には参加していなかった。
 それでもボンヤリと虚空を見つめながら、小さな声で一言つぶやいた。
 「どういう意味だろう‥」
 それ以外にしゃべらなかったので、大先生は不思議そうな顔で少年の方を向いた。
 「ン!?」
 ジミイも気づいて物問いたげな顔をして、向かいから彼を眺めた。
 「何かあるのか、レミ?」
 大先生にそう聞かれても、レミはベッド横の床の方をうつむいて見ていて無言だった。
 しかし返事を待たれているようだったので、手の平を組み合わせた姿勢のまま答えた。
 「え?いいえ。何でもありません」











 やがて数日が経ち、フィリップの馬小屋事件も結局は誰かのイタズラということで終わった。

 学校ではバブリック祭も徐々に近づき、4年生の劇の練習がほぼ毎日放課後に行われるようになった。フィリップもねんざを治して練習に合流できるようになり、元のような平和な日々が戻りつつあった。

 講堂を使える週末以外、彼らはその時あいている場所で練習した。
 本殿のダンスホールや職員棟の生徒会議室などは上級生が使っているため、彼らは教室裏の庭だったり、第2教室の倉庫へ行くことが多かった。
 演劇部室や寮棟の1階フロアもあいていたが、場所が遠いのであまり使わなかった。放課後すぐに行けて、夕食の時間にも遅れない学舎棟の方が何かと便利だったのだ。




 この日は雨が本降りで外へ行けなかったので、倉庫の方に皆が集まっていた。

 第2教室の倉庫というのは、かつて夏休みにレミとフィリップがピアノで遊んだ部屋だった。
 教科別館と名付けられた棟の中にあり、中には他に化学室や音楽室や美術室、理科教員の個室や準備室があった。建物は回廊沿いで、洗濯場と食堂の間に位置していた。
 廊下の途中にある小さい倉庫が理科専用、一番奥にあるのがそれ以外を入れる大きな倉庫で、この棟の各教室に使う備品がまとめてしまわれていた。
 そのため室内にはジャンルを問わず色んな備品や機械が置かれていたが、用務員さんがちゃんと整理整頓していたため、中は案外広々としていた。
 またこの部屋には、もう使わない古いピアノが置かれていた。
 生徒が時々それを弾いて遊んだり、演奏を聞いてくつろいだりすることがあった。そのため床に絨毯が敷かれていたり、誰が持ち込んだのかお茶を飲むための一式セットとアルコールランプが置かれたりしていた。
 壁の上の方にはちゃんとしたランプが設置されていて、雨の日の暗い時でも部屋を充分に明るくできた。そして木箱を裏返してクッションを敷いただけだったが、3人が余裕に座れるベンチがいくつもあった。

更新日:2022-10-04 20:48:55

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