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新学期

 夏休み中、レミが色々と危険な目に遭っていたことがわかり、学校の皆は彼に優しく接するようになった。

 もちろん後を追いかけてあれこれとおしゃべりしたり、時間があると教室や寮部屋まで彼の顔を見に来たりするのは変わらなかった。
 以前にも増して後を追いかけられ、忙しい学校生活を送りながら、レミは毎日が息つく暇もない程だった。
 しかし全体的に皆の彼を見る目が優しくなり、まるで女の子にするように丁寧に扱う感じになっていた。それはレミが誘拐事件の被害者だったことと、体育倉庫で事故にあって怪我を負ったことを、後で皆が聞いたからだった。
 それでなくても体が細く病気がちの少年を、自然にいたわるようになっていったのだ。なので荒っぽく捕まえに来たり、暴力まがいに手を出したりする者が減り、それまでレミを守ろうとしてきた同級生たちはホッと一息ついていた。



 レミが学校に復帰してようやく新学期が始まった感じで、生徒たちは元気よく毎日を過ごし始めた。
 たっぷり2カ月近くの休暇を過ごした後だったので、皆は精力があり余っていた。
 かつてはバブリックも近隣校の生徒としょっちゅうケンカをしていた時期もあったのだが、今はそんな学校間の抗争はほとんどなくなっていた。それで思いきり暴れたい者がストレス発散できる場が少なく、校内にはやや不穏な空気が流れつつあった。



 それはこれまでの最上級生だったレオナルドやマーチがいなくなり、新たな8年生のカラー(特色)が出始めているとも言えた。
 新8年生は前年の彼らのように優雅でお祭り好きではなく、ケンカっ早くて大人に逆らいがちな不良っぽい生徒が多かった。下級生を面倒見るというよりは手下に使い、担任や普通の教師とはあまり繋がりを持ちたがらず、何かイベントをするよりは寮部屋で酒でも飲んでいたい派だった。
 そうして最上級生が代変わりすると、その性質通りの空気が学校に流れ始めるのは不思議だった。
 今の8年生はそれほど目立ったり、他に影響を与えたいと思う人達ではなかった。
 だがやはり全生徒の上に君臨しているため、自然に下級生が影響されていくようだった。何に対しても皮肉っぽく、斜に構えるような態度の者が、7,8年を中心に増えていったのだ。
 いつもイライラして鬱憤をためている感じで、今の8年生は怖い人が多いという印象だった。それで後輩たちは先輩を怒らせないように、あまり関わり合いにならないように大人しくし始めた。











 ところでバーミンガムという町は近くに鉄鋼工場がたくさんあり、近代化の波に乗って大変な発展を遂げていた。
 大陸ではいまだに大きな戦争が続いていて、鉄製品の需要が高く、多くの労働者がこの町に集められた。工場でお金を稼ぐために、村から家族ぐるみで越してくる家もあって、どんどん市民が増えていたのだ。

 そんなバーミンガムの郊外にあるバブリックスクールは、一応私立校だったので労働者階級とは直接関係はなかった。貴族や上流階級、もしくは裕福な資産家の家の子供が通う寄宿学校だったからだ。
 それでも町が発展していく中で、中産階級の人々が豊かになり、子供に良い教育を受けさせようと思うようになっていた。
 バブリック校は私立校といっても、イートンなど伝統的なパブリックスクールほど厳格な入校規制があるわけではなかった。
 それなりの高貴な身分が絶対に必要な訳ではなく、近隣に住む平民の子でも、意欲や能力があれば入ることが出来た。
 全生徒が寮生活を必須にしているため、確かに1年を通して掛かる費用はかなり高かった。それでも子供に良い教育を受けさせたい親が、わざわざこの学校を選んで入学させるのだった。

 そんな風にして、バブリック校もだんだん入学者が増えているのが現状だった。
 つい昨年ぐらいまでは1年の入学者も少なく、転校生などは数えるほどしかいなかった。それで外国から編入したレミはとても珍しく、全校生徒の注目を浴びたのだ。



 しかしこの新学期になって、その傾向がガラリと変わった。
 バブリックに1年からだけでなく、途中の学年から入って来る生徒も増えるようになったのだ。
 それは資産家の親がバーミンガム市に拠点を移したとか、家の経済状態が良くなって子供を進学校に入れたいとか、この学校の噂を聞きつけて遠くから子供を寮に入れたいとか、そんな親が増えたためだった。
 各学年にいきなり4,5人が入るクラスも出てきた。低学年は特にその傾向があり、新1~3年は寮部屋が足りず、S館の予備の部屋も開けたぐらいだった。
 レミたちの新4年は来たのはまだ1人だけだったが、近い内にあと2,3人入ってくるという情報をトムがつかんでいた。



 そんなふうに一挙に新しい生徒が増えることになったため、もはや転校生は珍しくなくなっていった。

更新日:2022-01-31 23:56:58

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