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 さんごの行方はわからないまま、もう一年が終わろうとしている。年が明けるまでには見つけなければと思っていたのに。
 受験勉強にも疲れてしまい、私は気分転換も兼ねて外へ出た。べつに、家にずっといるのも勉強をするのも苦にならないが、受験となるとなんだか息苦しい気分になる。まだ実感はないのに、得体の知れない苦痛だけがある。さんごのことも気がかりだし、何か別なことをしていた方が楽だった。たとえそれが外出だとしても。
 とはいえ、さんごが行きそうな場所はあまり思いつかない。そもそもあの子が外に出るのは私の送り迎えのときくらいだから、そう広い範囲を知っているわけではない――と、思う。たぶん。
 窓辺に座るさんごの姿を思い返す。深夜、急に窓から飛び出して行ってしまったあの子。あのときすぐに追いかけていればよかった。どうして私はこんなに鈍いのだろう。
 あてもなく、なんとなく猫がいそうに思う方向へ歩く。そのうち、例のバス停が近いことに気がつき、そちらへ足を向けた。さんごとそこに行ったことはないが――何か、あるんじゃないかと思って。ただの勘だが、おばあさまの孫なのだから、私の勘も少しくらい当たったっていいはずだ。
 バス停へたどり着くと、そこにはやはり黒い人影がある。今日はそこまで嫌な気分にもならず、ふらふらとそちらへ近づいてみた。
「あ、ミコト君、こんにちは」
 トバリさんはまた全身黒いものを身につけていた。というより、黒い外套を着ているので、ほとんど黒に見える。
 そういえば、この間は服装をよく見ておくのを忘れていた。もうどこの学校も休みだろうし、結局この人が学生なのかさえよくわからない。人の年齢など見た目ではよくわからないし。なんとなく年上のようには思えるが。
「珍しいですね、お散歩です?」
 相変わらず、バス停の椅子に腰掛けていたくせしてバスは待っていないらしく、わざわざ立ち上がってこちらへ来た。私がうまく答えられないでいる間も、じっと黙って待っている。これは親切なのだろうか。
「猫を探しています」
 やっとそう口にすると、相手はちょっと首を傾げた。
「猫?」
「はい」
「どんな猫ですか?」
「・・・黒い毛の、女の子です」
「はあ」
 相手の顔が少し上を向く。考え事をするとき、良いことを考えると視線が上に、悪いことを考えると視線が下に移ると聞いたことがあるが、本当だろうか。そもそも考え事をするのに視線を移すのはなぜなのだろう。

更新日:2022-01-17 20:34:11

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