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 そのまま昨日と同じ曲がり角まで来ると、そこでまた相手は離れた。
「それじゃ、ここで。気をつけてねミコト君」
 ひらひら揺れる手を、どうしていいかわからず見つめる。そんな私を相手はしばらく見つめ返していたが、やがてどこかへ去っていった。
 結局返せなかった傘をどうしてくれようかと思いながら、私も家へ帰る。まだ新しい傘に見えるし、そうすぐに壊れることはないだろう。それまで使えというのだろうか。そもそも、私は志望通りに進学すれば寮に入ることになるから、返すのが難しくなる。どうしたらいいのだろう。
 面倒なことになったと思いながら、ふと気がつく。相手は私の名前を知っていた。それも苗字でなく、滅多に呼ばれることのない下の名前。私をミコトと呼ぶ人間が今までいただろうか?
 おばあさまはもちろんミコトという名前を知っている。けれど、私のことはいつもみーちゃんと呼ぶので、そこからミコトという名前とまではわからないだろう。だから、それを偶然聞いただとか、そういうわけではない。おばあさまの知り合いか何か、ということも考えられるが、あんな人は今まで見たことがない。
 あの人がこの辺りに住んでいるとすれば、私がここへ越してきてからの知り合いということになる。が、ここへ来てからミコトという名前で呼ばれた覚えはあまりない。小学生の頃のクラスメイトにはそう呼ばれていたかもしれないが、いまいち記憶がはっきりしない。
 もう少し服装をきちんと見ていれば、制服を着ているか、着ているならどこの制服か、ということで、年齢やらなんやら、少しは情報が得られたのだろうが、残念ながら何やら黒系統の服だったことしか思い出せない。私の通う学校の制服は紺色のブレザーなので、たぶん同じ学校の人間ではない、とは思う。・・・あまり自信はない。この辺りにある学校の制服をよく知らないので、これ以上のことはわからない。黒い制服の学校はあったような気はするが。
 あれは一体何者だろう?どうして私のことを知っているのだろう?

更新日:2021-12-20 19:38:58

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