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 帰り道。あれこれ考え事をしながら歩く。
 未ださんごは見つからないけれど、今日は早く帰りたいので探す気になれない。そもそももう探す意味があるのかどうか。あの子はきっとどこかで生きている、とは思うけれど、探してももう見つからないようにも思う。誰かに拾われたか、それとも人の手が届かない場所へ行ったか、なんにせよ私があれこれ考えたとてどうにもならない気がした。どうせ私が何をしようが無駄なのだ。
 風が冷たい。早く帰りたい。もう学校にほとんど用はないのになぜ毎日通わなくてはならないのか。そうは思うが、きちんと行かなければおばあさまを心配させるし、あまり生活態度が悪いと卒業できなくなったり合格取り消しになったりするかもしれないので仕方がない。今まできちんと休まず学校に行ってはいるので、おそらく出席日数は足りていると思うが、さすがにいきなり行くのをやめるのは印象がよくないだろう。もし高校の方にそんな話がいったら入学できたとしてもその後が好ましくない。不真面目だと思われるのも嫌だ。三学期の状況がどの程度高校へ伝わるのかはわからないが。
 考え事をしていると、だんだん自分がどこにいるのかわからなくなってくる。目に映っているはずの景色は漠然としていて、人の声やら車の音やらが遠い。それでも足は止まらず一応いつもの道を歩いてはいるが、それすらもよくわからなくなっていく。私はどうして、どこへ向かっているのだろう?もう何も知らない。早く帰りたい。
 こんな風にしているうち、私は死ぬんじゃないだろうか。
 ふとそんなことが浮かんだとき、誰かが私を呼んだ気がした。外で人に名前を呼ばれるとだいたいろくなことがない――と考える間もなく、肩に誰かの手が置かれる。
「ミコト君?」
 振り向くとトバリさんが、あまりよくないであろう表情で私を見ている。私が何をしたというのだろう。
「大丈夫?御髪濡れてる・・・」
 そう言いながら私の髪に触れようとしてきたので、反射的にその手を払ってしまう。やってしまった後でまずいことをしたと気がつくが、今更どうにもならない。相手は変わらず、何かよくない表情をしている。
「何かあったの?」
 何かあったのはそっちではないのか、と言いたくなるが口には出さない。
「なんだか落ち着いてないみたいだし。・・・ちょっといい?」
 そう言うなり、相手は私の手を掴んで道の端へ引っ張った。何をされるのかと身構えていると、さらに肩を押さえられる。そして、相手は空いている方の手でハンカチを取り出すと、私の髪に押し当てるようにして水気を取り始めた。

更新日:2022-06-05 22:27:22

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