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脳が疲れ切ったように、何も考えられない。試験のことより、きちんと主屋に帰ってこられたことの方が重要なことにさえ思えてくる。結果は想像がつかない。そう大きな失敗はしていないはず、とだけは思う。けれど本当のところはどうなのだか。
 やっと試験が済み、あとは結果を待つばかり。合格さえしていればもうあとは入学後の準備をするだけでいい。していなかったときのことはもうわからない。
 朝から散々気を張って、いい加減休みたいのだが、家に帰るのがなんとなく恐ろしい。おばあさまに出来を聞かれたらなんと答えよう。悪くはなかった、とは思う。良かったとは言い切れない。合格するかどうかもわからない。それでも、あまり下手な答え方をするとおばあさまにまた心配をかける。嘘はつけないだろうしどうしたものか。
 まっすぐ家に帰るつもりが、どうにも足が重い。ほんの少しでいいからどこかで落ち着きたい。頭を整理する時間が欲しい。
 そう考えるうちにふと、例のバス停が頭に浮かぶ。
 行ってみようか。
 そう思って道を変える。何をしようというわけでもない。あの人と会おうというわけでもない。ただ、今はあそこが一番都合よく思えた。あまり寄り道するものではないとわかってはいるのだが。
 だんだん後悔してきたところでバス停に着く。誰もいない。時刻表を見てみれば、バスはしばらくは来ない。
 少しくらい座らせてもらってもいいだろうと思い、古びた椅子に腰掛ける。ここに来るときは大概雨の日だったので、なんだか不思議な気分になる。目を閉じれば、今日も雨が降り注いでくるような。さあさあと雨の降る音が聞こえてくるような。水の冷たさを感じるような。
 水は好きだ。理由は自分でもよくわからないが、なんだか居心地がいい。このまま眠りについて、二度と目覚めなくてもかまわない気がする。いっそのこと水の中に沈んでしまって――その方が私に合っているような――まるで何かに受け入れられたように――何も知らないまま――思考がだんだんと意味を失っていく。

更新日:2022-02-27 21:31:56

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