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雪が降っている。それなのに、さんごはまだ見つからない。あの子は寒がっていないだろうか。それとも、もうそんなことを心配する必要はなくなったのだろうか。
午後から雪が降ることは知っていたが、普通の傘を持ってくるのをすっかり忘れていた。例の折り畳み傘は便利だけれど、少し小さいし強度が低そうで、雪の日にさすにはやや心もとない。
第一志望の入学試験まであと一週間。ひどく焦るような、もうすっかり落ち着いたような、どちらともつかない嫌な気分でいる。そのせいか、なんだかここのところ体調がよくない。常に頭が重たいような、吐き気というほどではない不快感があるような、よくわからない状態が続いている。もっとも、こういうことは今までも度々あるのだが。
考えがいつも以上にまとまらず、朝から不気味なくらいにぼんやりとしている。今までどう生きていたのかやら、これからどうなるのかやら、挙句に一週間後の試験をどう受けるのやら、何もわからない。教科書や問題集の文字も、それが文字だということがわかるばかりで、意味が全く飲み込めなかった。
そんな状態でも、いつもの帰り道は体が覚えているのか、何も考えないままでも歩くことができる。雪の寒さもあまり気にならない。多少歩きにくくはあるが、問題はないだろう。おそらく。
入学試験のことはあまり、考えたくなかった。さんごの行方について考えようとしたけれど、悪い発想ばかり曖昧に浮かんでは消える。路地の陰、草の下、ゴミ捨て場――もう諦めた方がいいのだろうか。どこか安全な場所にいない限り、こんな寒い中ずっと外にいれば、あの子だって無事では――。
ぷつりと思考が途切れる。頭の中が今日の天気と同じような灰白色に染まる。
なんだかもうよくわからない。ただ早く帰りたい。帰って――何をしようというのだろう?
当然勉強はしなくてはいけないのだけれど、こんなに試験が近くなってしまったらもう何をしていいかわからない。さんごを探したいけれど、もうあちこち行って、探すあてなど尽きてしまった。あとは――帰りたい。前までいた町に、金森に帰りたい。
ここへ来てから、さんごを拾った以外にろくなことがない。毎日行きたくもないところへ行き、会いたくもない人間と顔を合わせて、やりたくもないことをやらされる。当たり前のことではあるけれど、そのせいでどんどん自分が惨めになる。おばあさまを心配させたくはないし、恩返しもしたいけれど、そうでいられる自信もそうなれる自信もない。
もう嫌だ。早く帰りたい。あの家に帰りたい。そこにはきっとさんごもいて、それから――。
午後から雪が降ることは知っていたが、普通の傘を持ってくるのをすっかり忘れていた。例の折り畳み傘は便利だけれど、少し小さいし強度が低そうで、雪の日にさすにはやや心もとない。
第一志望の入学試験まであと一週間。ひどく焦るような、もうすっかり落ち着いたような、どちらともつかない嫌な気分でいる。そのせいか、なんだかここのところ体調がよくない。常に頭が重たいような、吐き気というほどではない不快感があるような、よくわからない状態が続いている。もっとも、こういうことは今までも度々あるのだが。
考えがいつも以上にまとまらず、朝から不気味なくらいにぼんやりとしている。今までどう生きていたのかやら、これからどうなるのかやら、挙句に一週間後の試験をどう受けるのやら、何もわからない。教科書や問題集の文字も、それが文字だということがわかるばかりで、意味が全く飲み込めなかった。
そんな状態でも、いつもの帰り道は体が覚えているのか、何も考えないままでも歩くことができる。雪の寒さもあまり気にならない。多少歩きにくくはあるが、問題はないだろう。おそらく。
入学試験のことはあまり、考えたくなかった。さんごの行方について考えようとしたけれど、悪い発想ばかり曖昧に浮かんでは消える。路地の陰、草の下、ゴミ捨て場――もう諦めた方がいいのだろうか。どこか安全な場所にいない限り、こんな寒い中ずっと外にいれば、あの子だって無事では――。
ぷつりと思考が途切れる。頭の中が今日の天気と同じような灰白色に染まる。
なんだかもうよくわからない。ただ早く帰りたい。帰って――何をしようというのだろう?
当然勉強はしなくてはいけないのだけれど、こんなに試験が近くなってしまったらもう何をしていいかわからない。さんごを探したいけれど、もうあちこち行って、探すあてなど尽きてしまった。あとは――帰りたい。前までいた町に、金森に帰りたい。
ここへ来てから、さんごを拾った以外にろくなことがない。毎日行きたくもないところへ行き、会いたくもない人間と顔を合わせて、やりたくもないことをやらされる。当たり前のことではあるけれど、そのせいでどんどん自分が惨めになる。おばあさまを心配させたくはないし、恩返しもしたいけれど、そうでいられる自信もそうなれる自信もない。
もう嫌だ。早く帰りたい。あの家に帰りたい。そこにはきっとさんごもいて、それから――。
更新日:2022-02-06 21:09:02