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さんごはまだ見つからない。本当に、どこへ行ってしまったのだろう。
高校受験まで一ヶ月を切ったが、さんごのことが気になって勉強どころではない。それに、まだ、高校受験も進学も現実味がない。自立しようと寮に入ることにしたはいいけれど、これから自分がどうなるのか全く想像ができない。
合格は確実と言われたけれど、本当にこのままで大丈夫なのだろうか?どこにも合格できなかったらどうなるのだろうか?合格したところで、私はどう過ごすことになるのだろう?
抱えていた不安感だけは具体化していく。寮に入るなんて言うべきじゃなかったかもしれない。けれど、少しずつでも自立しなければおばあさまに恩が返せない。どうせ取り柄も何もないのだから、努力をせねば。そうでないと・・・。
考えてみれば中学卒業も近い。学校への未練やらなんやらは一欠片もなかった。いっそもう三学期なんて要らないだろうとさえ思う。その分の時間を自由に使えたならどんなにいいか。冬休みがもう少し長ければいいのに。
今日も今日とてさんごを探しながら帰る。猫を探すのなら缶詰ご飯をカンカン鳴らすのがよくある手だが、さんごはあまりカンカン鳴る音は聞いたことがなかったはずだし、缶詰ご飯よりなまり節が好きだったので、おそらくこの類の手は使えない。缶詰を開ける音なら来るかもしれないが、そう何回も鳴らせる音ではない。
気が向いた方へ足を向け、慣れない道にまで入ってみる。なんとなく、こっちへ行った方がいいような気がする。迷うかもしれないけれど、いざとなればそのまま引き返せば大丈夫だろう。
私がこの町に来てからもう九年ほど。いつの間にか、前の町よりも長い時間をここで過ごしている。それなのに、私はこの町をあまりよく知らないままでいる。もうすぐここを離れるかもしれないのだし、たまにはこうして知らない道を歩くのもいいだろう。
新しい景色を見ること自体は嫌いではない。それに、少しは気分が紛れるから悪くない。こうして歩いていると、なんだか不思議な気分になってくる。いつも過ごしている場所から遠く離れてしまったような、このまま、別世界にでも迷い込んでしまいそうな・・・。
「あれ、ミコト君」
突然横から声がした。
「どうしたの、こんなところで」
さすがにそれが誰なのかはもうわかる。そちらへ視線を向けると、相変わらず黒い外套を身につけたトバリさんがいる。制服かどうかはよくわからない。ただ、うちの学校には指定の外套があったはずなので、たぶん同じ学校ではない――と思う。規則を破っていないのなら。
「ご一緒していいですか?」
断ろうとしたが、この間のことを思い出してためらう。また何か嫌な反応をされるかもしれない。
「ね?迷子になったらいけないし。あんまり遅くなってもいけないし・・・あ、時間があるなら、少しくらい寄り道しても私はかまわないんですけど。でもほら、おばあさまが心配しますよ?」
一人で喋りながら、相手はまた私の手首を掴む。
「あの・・・」
「だめ」
抗議しようとしたが、ぴしゃりと遮られた。
「帰ろう?今度この辺り案内しますよ。あ、そうだ、この間誘おうと思ったお店もこの近くなんですよ。ちょっとだけ回り道して、見に行きません?見に行くだけ」
やはりこの人は人の話を聞く気がないようで、答えを待たずに私を引っ張っていく。逆らっても無駄な気がしたので、おとなしく後に続いた。
高校受験まで一ヶ月を切ったが、さんごのことが気になって勉強どころではない。それに、まだ、高校受験も進学も現実味がない。自立しようと寮に入ることにしたはいいけれど、これから自分がどうなるのか全く想像ができない。
合格は確実と言われたけれど、本当にこのままで大丈夫なのだろうか?どこにも合格できなかったらどうなるのだろうか?合格したところで、私はどう過ごすことになるのだろう?
抱えていた不安感だけは具体化していく。寮に入るなんて言うべきじゃなかったかもしれない。けれど、少しずつでも自立しなければおばあさまに恩が返せない。どうせ取り柄も何もないのだから、努力をせねば。そうでないと・・・。
考えてみれば中学卒業も近い。学校への未練やらなんやらは一欠片もなかった。いっそもう三学期なんて要らないだろうとさえ思う。その分の時間を自由に使えたならどんなにいいか。冬休みがもう少し長ければいいのに。
今日も今日とてさんごを探しながら帰る。猫を探すのなら缶詰ご飯をカンカン鳴らすのがよくある手だが、さんごはあまりカンカン鳴る音は聞いたことがなかったはずだし、缶詰ご飯よりなまり節が好きだったので、おそらくこの類の手は使えない。缶詰を開ける音なら来るかもしれないが、そう何回も鳴らせる音ではない。
気が向いた方へ足を向け、慣れない道にまで入ってみる。なんとなく、こっちへ行った方がいいような気がする。迷うかもしれないけれど、いざとなればそのまま引き返せば大丈夫だろう。
私がこの町に来てからもう九年ほど。いつの間にか、前の町よりも長い時間をここで過ごしている。それなのに、私はこの町をあまりよく知らないままでいる。もうすぐここを離れるかもしれないのだし、たまにはこうして知らない道を歩くのもいいだろう。
新しい景色を見ること自体は嫌いではない。それに、少しは気分が紛れるから悪くない。こうして歩いていると、なんだか不思議な気分になってくる。いつも過ごしている場所から遠く離れてしまったような、このまま、別世界にでも迷い込んでしまいそうな・・・。
「あれ、ミコト君」
突然横から声がした。
「どうしたの、こんなところで」
さすがにそれが誰なのかはもうわかる。そちらへ視線を向けると、相変わらず黒い外套を身につけたトバリさんがいる。制服かどうかはよくわからない。ただ、うちの学校には指定の外套があったはずなので、たぶん同じ学校ではない――と思う。規則を破っていないのなら。
「ご一緒していいですか?」
断ろうとしたが、この間のことを思い出してためらう。また何か嫌な反応をされるかもしれない。
「ね?迷子になったらいけないし。あんまり遅くなってもいけないし・・・あ、時間があるなら、少しくらい寄り道しても私はかまわないんですけど。でもほら、おばあさまが心配しますよ?」
一人で喋りながら、相手はまた私の手首を掴む。
「あの・・・」
「だめ」
抗議しようとしたが、ぴしゃりと遮られた。
「帰ろう?今度この辺り案内しますよ。あ、そうだ、この間誘おうと思ったお店もこの近くなんですよ。ちょっとだけ回り道して、見に行きません?見に行くだけ」
やはりこの人は人の話を聞く気がないようで、答えを待たずに私を引っ張っていく。逆らっても無駄な気がしたので、おとなしく後に続いた。
更新日:2022-01-17 20:14:30