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基地の夜景

 その日の夜、チェリーとレイクはイシューに連れられて、スミスの別荘に戻ってきた。
 残りの大人達はまだレストランのバーにいたので、チェリーは今夜この基地に泊まる事になったのだ。

 “かつてサラが父親のダグラスに会いに来た時、この別荘にある同じ部屋を使った”のだとイシューに教えられて、少女はうなずいた。
 その話は、電話で本人から聞いた事があるのだと、少女はレイクに言った。
レ「サラは高校へ行ってるのか?」
チ「付属高よ、経済学部の一年。世の中のマーケット(市場)に興味が出てきたんですって。お金ってのが誰かさんのせいで無くなっちゃったけど、モノはまだ存在してるから。その点で言えば、新しい発想がどんどん出てくるいい分野だと思うわ」
レ「じゃ、寮に入ったんだな。お前は?」
チ「ただの遊び人よ。学生じゃないし、勤めてもいない。ウィルス騒動でタガが外れて、そのままフラフラと街に居つく若者が多いんですって。おまけに今度の大改革でしょ?‥まあ私としては、プータローでも目立たなくて助かったけど」
レ「お前…毎日、何が楽しい?踊ったり、ライブハウスに行ったりしてるのか?何を糧に生きてるんだ」
 彼らは幼なじみで気心が知れていたので、お互い言いにくい話や、ぶしつけなしゃべり方を平気でしていた。
チ「そうね、時間つぶしかしら。町じゃなくて、郊外へ行く事が多くなったわ。ツィーニャの手伝いをしてたのよ」
レ「お前が?ツィーニャは…。そういえば、野戦病院にいるって言ってた」


 退行時の記憶は、レイクにはあまり残っていなかった。
 しかしカンムの島でツィーニャに会った記憶は、おぼろげながら彼の中に残っていた。
 その時、彼女が言ったセリフは幼い脳のレイクには通じなかったのだが、こうして年令が戻って記憶をたどった時、ようやく相手の言っていた事がこれまでの情報と合致する形になった。


 そんなふうに記憶をたどって少し言葉を止めた彼に、チェリーが尋ねた。
チ「会ったんでしょ?離れ島へ行った時の話を、彼女に電話で聞いたわ。私こっちの国へ来ちゃってたから、あまり詳しくは知らないんだけど…。あんた、バカなままだったってね」

更新日:2021-12-30 10:07:21

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