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ACT.2

そして、考えのまとまらないまま丈二はふらふらと新宿を歩いていた。
忙しかった田上の会長としての仕事を離れ、懐かしい1979年の街並みを見ながら歩いていると、次第に重かった丈二の気持ちも穏やかになっていく。

ーとりあえず今すぐ何が起きるってワケじゃないしな。

せっかく忙しい身から解放されたんだし、ゆっくりしながらこれからどうするか考えていけばいいか。ー

そして歩道を歩きながら丈二は道行く車を見てヒューっと声を上げる。

ー 街並みもだけど、やっぱ車見てると時代を感じるねぇ〜。
10年一昔っツーもんな。

.....おっ?ー

電気屋の前を通りかかり、ショーウィンドウに飾ってあるテレビを見て思わず足を止める。

ーゲェッ ピ ピンクレディー!! なつかし~~~~!!

しかしこーして見ると、この茶色の髪どうにかしてほしいネェ....

って、あれ?
10年前も同じリアクションした様な...ー

そうして足取りも軽くなった丈二は、当時行きつけだった喫茶店に入って行った。
この喫茶店は前の人生の時にノーパン喫茶を経営した寂れた店だ。

「丈二チャンおはよー!
今日は早いねぇ。」

丈二がドアを開けて入るなり聞こえてきたマスターの声に、左手を軽く振って挨拶し、カウンターではなく店の一番奥の薄暗い場所にあるソファーに勢いよく腰を下ろして一つ息をついた。

ー 確か今日は前の人生の時、近田やサトシの大学に恐喝に行ってたんだよな。

それがきっかけでアイツらは大学を退学させられて俺の所に転がり込んで来たんだ。
と、言う事は俺が恐喝をしなければ大学をクビにならないから俺の所に来る事もない。
そもそも1回目の人生では奴らとは絡んでないしな。

もうアイツらをヤクザにはしねえ。

そうすれば少なくともサトシが死ぬことは無くなるもんな。ー

前の人生で一緒に戦ってくれた舎弟達。
心から信頼し、可愛がっていた弟分。
その面々をもう舎弟にしないとタイムスリップした直後から思っていた。

ただ、これからどう生きていくかまとまらないまま、近田達の力を借りないと決めると少なからず不安な気持ちと寂しい気持ちが湧いてくる。

それでもその方が、関わりを持たない方が今の丈二にとってはマシな決断に思え、そして心が少なからず軽くなっていた。

丈二はテーブルに運ばれたホットコーヒーを一口啜り、両腕を広げて大きく背伸びをした。

「ん〜〜〜〜〜っ!
それにしても平和だねぇ。」





そうして軽く朝食を済ませた丈二は海江田組の事務所へと向かう。



「おはよーーーっス!」

事務所のドアを開けて中に入ると、数人の組員が中で雑務をこなしていた。
こわもての組員達が一斉に丈二の方へ視線を向ける。

「おい、丈二。」

不意に名前を呼ばれ、声の方に顔を向けると、そこには同期の中山の姿があった。

ー中山...久しぶりだなぁ。

そう言えばコイツ、前の人生で俺が江原を追い出して海江田に戻って来た時、既に組にいなかったんだよな。

コイツも俺によって人生を狂わされた犠牲者の1人なのか。ー

「おい、丈二どうしたんだよ? 
ボーッとしやがって。」

中山の声に丈二は我に帰る。

「あ、いや、すまねえ。
チット考え事しててな。」

「あん?
なんだお前。しっかりしろよ?
て言うか佐山の兄さんから電話があって、いつもの店にスグこいって。」

「兄貴から...スグに...?」

「また杏子さんのことでドヤされんじゃねぇのか?
兄貴分が女の尻に敷かれっぱなしじゃ舎弟も大変だぁ!」

「ああ...。」

ーああ、なんか思い出して来たわ。
メンドクセーなぁ。ー

丈二はそう思いつつ、呼び出しじゃ仕方ないと早々に佐山の元へ向かおうとしたが、ふと立ち止まって中山に話しかけた。

「ところでよぉ...中山...

俺このあいださぁ、タイム...ス......」

そこまで言いかけてはっと我に帰り口を紡ぐ。

ーそういや前の人生でタイムスリップの話をしてロクなことなかったんだよな。
どうせ信じてもらえねえし。ー

「ん?
タイム?
なんだ?」

怪訝な顔をした中山の問いに丈二はあたふたしてしまう。

「あ?
いや...あのな?
ス.....ス....

そうだ、

ス、ストリップしたんだ....。」

「は?
...あ....そう。」

中山を初め事務所中の人間がポカーンと口を開けて丈二を見ていた。

更新日:2021-10-16 12:39:10

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