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ACT.1

挿絵 344*500

「ねぇー、次は僕の番でしょう?」
「お前このゲーム下手くそだろ? 
僕の方が上手く丈二を動かせるんだからもう少し見てろよ!」
「ずるいよー!
さっきから僕、ずっと待ってたんだからー!」

ゲームのコントローラーを子供2人が奪い合っていた。
そして、その2人の間に置かれたテレビにゲーム画面が映し出されている。

画面の中には1人のキャラクターがいた。

白いストライプのスーツを来た若いチンピラ風の男。
痩せ型でそれ程筋肉質ではなくどこにでもいる若者。
1970年代のロックンローラーが好んでしていたポマードで整えたリーゼント。
その男は両手、両足にロープが巻かれ、目一杯体を広げられて宙吊りにされていた。

ー やめろ、引っ張るな!
  身体が千切れちまう。

  降ろしてくれよォ...

  .....

  降ろしてくれよぉぉぉぉぉぉ!!!!


「わああああっっ!!」

元八州田上連合会 会長、現在は海江田組 組員の阿久津丈二(21)は呻き声と共にガバっと布団から身体を起こした。
すると、額から汗が流れ落ちるのを感じ、手を当てて拭う。
そうしてハァハァと荒ぶった呼吸を無理やり整え、ゆっくりと瞳を開けて周りを見渡した。

そこは六畳一間のボロアパートの一室。
かつて丈二が暮らしていた馴染みのある部屋だ。

床には雑誌が転がり、コタツテーブルの上には一杯になった灰皿と食べ終えたカップ麺の容器が無造作に置かれている。

ー くそっ.....夢かよ...

.....。

今も...


今も俺は誰かに見られながら良いように操られてるのか?
だとしても、この世界がゲームの中だなんて信じられねぇ...。

だけど...前に死ぬ時にも思ったケド、それを確かめる手段なんてないんだろう。

江原は....どうだったんだろう?

神のシナリオに背くと言って、俺との戦いに勝っていたのに自ら頭を撃ち抜いた江原。

アイツは死ぬ時に何を見たんだろう。

真実に辿り着いたんだろうか...。ー

丈二はそう考えながらカーテンを開けてゆっくりとテーブルの横に座る。
懐かしい風景と香りに包まれ、とりとめもない疑念はゆっくりと薄れていく。

ーそれにしても...

ホントにまた戻ってきちまったんだな。ー

そして丈二はタバコに火をつけるとふと昨夜のことを思い出した。

ー サトシの奴、元気だったなぁ。
近田に土橋もあの後来て、まるで昔に戻った様だったな。

って昔に戻ってるんだっけか。

洋一も皆んなも初めはワケわかんねーって面してたけど、酒が回ったらどーでも良くなったのか楽しそうに騒いでたし。

.......


地位なんてどうでもいい。
周りの目なんて気にせず、ただ気の合う奴らと旨い酒を飲めるってだけで、田上の会長だったあの頃よりズっと楽しかった。

俺は...カオリを初め、サトシや洋一達を死なせてしまった事に対してずっと責任を感じて来た。
だけど、今、この世界ではアイツは生きてるんだもんな。

......ー

丈二はそう思うと、ため息を一つついてうな垂れるように床を見つめた。

ー カオリ。

...会いたかった。

...。

でも...どんなツラしてアイツに会ったらいいんだ。

俺は、アイツを死なせてしまった自分を一時も許せないまま、またこの時代に来ちまった。

都合よく戻って来たからってヘラヘラ笑ってアイツの元へ行って良いはずなんてねぇ。

それに...。ー

更新日:2021-10-11 19:00:07

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