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1、話のはじまり[発心供養品(ほっしんくようほん)一]

大きな智慧の海。
毘盧遮那仏(びるしゃなぶつ)に帰命(きみょう)し奉(たてまつ)る。
私は、このように、お伺いいたしました。

昔、ある時、お釈迦さまは、インドの頻婆娑羅王(びんばしゃらおう)が治めるマガダ国の首都、王舎城(おうしゃじょう)で、沢山のお弟子さん方に囲まれて、ご説法なされておりました。

そんな、ある朝。お弟子様のお一人であられる目揵連(もくけんれん)尊者が、自分が見た夢を、師である釈尊に伝えられました。
それは、天の宮殿に昇られた夢でした。
その夢で、その天の宮殿にお住まいの浄居天(じょうごてん)さまから、お歌をお聞きになられました。
「限りない永い時の流れのなかから、菩提(ぼだい)の道を求め、何度も生まれ変わってきた、衆生(しゅじょう)の大いなる宝。
それが、あなたの師、お釈迦さまです。
お釈迦さまに、この世で、なかなかお会いできることはできません。まして、そのご説法を聞くことができるなんて、とても巡り合うことなどできません。
あなたは何と幸せなのでしょう。」
目揵連は、天から地上に戻り、それをすぐにお釈迦さまに申し上げました。

すると、お釈迦さまは、
「そうでしょう。この世に、生まれる前から、私は何度も何度も仏として生まれ変わってきて、仏となることを約束されてきました。
そして、今、世が荒れた時に、仏の種を植えようと、この世に生まれてきているのですから」と、お応えになられました。

別の弟子、阿難(あなん)尊者がそれに加えて、お尋ねになられました。
「どうして、そのようなことがお分かりになられるのですか。
阿尼廬豆(あにるだ)尊者は、天眼は、釈迦の我見(がけん)にすぎないと言っておりますが、お教えください。」
お釈迦さまは、阿難の問いに、すぐには答えられませんでした。
それでも、何回も阿難がしつこく聞いてくるので、厳しくおっしゃられました。
「阿難。お前の浅はかな考えなどでは、とても考え及びのつかないことです。」
と阿難尊者をおたしなめなられました。

これを受けて、お釈迦さまは、ご自分の前世から、お悟りを開かれた、今までのご半生を話し始められたのでした。


更新日:2021-11-19 15:13:12

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