• 9 / 88 ページ

8月4日 片割れ

 こんばんは。ようこそいらっしゃいました。
 ・・・。何を話しましょう。
 まあ、ともかく、昨日一昨日とはまた違ったような話をしましょうか・・・。
 何か、何か・・・。
 きょうだいの話です。あなたにはごきょうだいがいらっしゃいますか?私には・・・似たような子はいましたが。まだ小さい頃の話です。・・・もう焼けてしまいました。
 ・・・その話は近いうちにいたしましょう。今夜のお話は、きょうだいの中でも少し特殊な、双子の兄弟の話です。
 さて。お話の主人公は高校生の少年なのですが、まずは彼が中学生の頃の話をしましょう。
 彼はおとなしいたちで、どちらかといえば一人で気ままに過ごす方が好きでした。趣味は散歩。そういうわけですから、その日も一人で、川のすぐ横の道をふらふら歩いていました。
 しかし、その日は風が強く、彼自身もこんな日にうろつくのはあまりよくなかったかと思うほどでした。そんなことを考えているうち、特に強い風に吹かれ、思わず歩くのをやめて一歩後ずさりをしたのですが・・・足の置き場が悪く、足を滑らせて川に落ちてしまいまして。さらに悪いことには人気のあまりない場所でしたから、助けも来ずにぐんぐんと流され、ついには意識を失ってしまいました。
 気がついたときには、彼は何かの作業場のようなところで、大きな作業台に寝かされていました。人ひとり乗せられるほどですから、かなり丈夫なつくりなのでしょう。起き上がってみれば、周りには巻尺やら裁ちばさみやら、裁縫に使うらしい道具が置いてあります。そうして何やら生臭いような、妙なにおいがしました。
 状況が飲み込めない少年に、おはよう、と何者かが声をかけました。見ればそれは同じ年ごろだと思われる少年で、彼が使うには大きそうなエプロンを身につけています。後ろ手で紐をいじっているようでしたから、今身につけたところなのでしょう。
 やけにニコニコと人懐っこい笑みを浮かべたエプロンの少年は、目が覚めたんならもうお帰り、と言います。少年・・・どちらも少年なのでわかりにくいですね。ええと・・・主人公が状況を飲み込めずにいると、エプロンの少年は変わらずニコニコとしながら、まだ死ぬべきでない人をこうして生き返らせるのだと説明します。そしてまた、君はまだ死ぬべきでないから、早くお帰り、と。
 それ以上聞く前に、エプロンの少年はいってらっしゃい、と明るく声をかけて、一度手をぱんと叩きました。するとあたりの景色が急に変わり、主人公は元いた川辺に放り出されていました。場所は落ちたところからは少し下った場所で、どうやら川へ落ちたのは事実のようですが、あまり流されないうちにうまく岸へ引っかかったようです。流されたときのことを思い返すと、もっと川下へ流されたように思われたのですが。

更新日:2021-08-04 20:03:34

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook