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8月3日 得体知れず、六つ

 こんばんは。あなたもお暇なのですね。
 ・・・あの、失礼なことを言うつもりはありません。ただその、わざわざここにいらっしゃるくらいなので、よっぽどお暇なのだろうと。
 ・・・。
 その。お話をいたしましょうね。言ったことに深い意味はないんです。忘れてくださって結構です。
 ええと。少し変わり種の話にでもいたしましょうか。珍しい話の方が暇つぶしにはなるでしょう。昔どこかで読んだか聞いたかしたお話で、いくつかあります。おそらく、五つ六つほど・・・ですかね。
 ただその、あんまり変わっていると言いますか、今からしようと思っているお話は、昨日の話のように正体がはっきりしているものではないのです。怪奇現象ではありますが、何がどうしてそんなことが起こるのかは誰にもわからないというわけでして。いえ、怪奇現象なんてそういうものかもしれませんが・・・その。
 ・・・。ともかくお話しします。あなたのお好みに合うといいのですが。
 一つ目のお話です。舞台はどこか、自然の多い田舎町です。それはそれは穏やかな、清らかな川の流れに、青々とした山のある、美しい土地・・・でしょうか。どうでしょう。ともかく、深い山のあるところです。
 その山には、何かがいる、と昔から評判でした。時折行方不明者が出るのです。まあ山で遭難なんて話はそこそこ聞きますが、問題はそれら行方不明者が例外なく爪のない死体となって見つかることで。
 はい。爪です。手と足、両方、合わせて二十。根元から引き抜かれているそうですよ。そこに何がいて、なんのためにそういったことをするのかは、おそらく誰にもわかりません。ともかく昔からそういったことが起きるようで、そこは・・・爪抜きだとか、爪食いだとか、そういった別名があるそうですよ。正確なことは忘れました。調べれば見つかるかもしれません。最近は便利ですからね。
 これだけです。こういったお話があといくらか。どれも、起きる現象ばかりで理由や原因はわかりません。
 続けましょう。二つ目です。こちらは都会・・・というほどではないにせよ、それなりに整備され、人の多い場所です。舞台はその町の、とある公園です。
 その公園では、なくしものをする人がやたら多かったそうです。毎日のように誰かがものをなくし、探しても見つからず。日が経って出てくるようなこともなく。そのくせ、財布や貴金属など、貴重品や個人情報の類はなくなりませんでした。しかし、あまりに多くのものがなくなり、それらは一つ残らず影も形もなくなってしまうものですから、不思議なものだと言われていました。
 そしてある日、その公園がなくなることになりまして。遊具が撤去され、工事が行われるわけですが、その際、ブランコのあった場所の真下から、大量のものが掘り出されました。ええ、それまでに公園でなくなったものたちです。
 その公園や近辺で、原因となりそうな幽霊やら死亡事故やらの話もなく、それ以外に変わったことが起きたわけでもなく。なぜものがなくなって、なぜそれらがブランコの真下に埋められていたのか、誰にもわからないのだそうです。
 ・・・犬か何かの動物ではないでしょうか。そういったものが亡くなったとしても、あまり記憶しておく人も少ないでしょうし。べつに証拠があるわけではありませんけれど。
 まあそんな推測はどうでもよろしい。次のお話ですが・・・。

更新日:2021-08-03 20:23:41

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