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8月9日 狐の嫁入り
こんばんは。またいらしていただき嬉しいです。
さて、昨夜は祖母に聞いた・・・狐の類の神様の話でしたが。同じく祖母から聞いた話で、もっと昔話らしい狐の話を思い出したので、それをお話します。祖母はあまり狐の類を好いてはいないようでしたが、何も嫌っていたわけではありませんでしたから。
そういうわけで狐の話です。とある森には狐がたくさんおりまして、彼らは森に迷い込んでくる人間を化かすのを楽しみにしておりました。よく話に言われるように、人の姿に化けたり、幻を見せたりして、森に入り込んだ人間を迷わせてやったり、穴にでもはめてやったり、土や草を食わせてやったりして遊んでいたわけです。そうして驚いてきょろきょろしたり、化かされたことに気がついて怒ったりする愚かな人間たちを見て、狐たちは笑いあうのでした。
さて、その日もまた森に入ってきた人間がおりました。何かを探すように歩き回る男・・・という、狐からしたらずいぶん面白い相手で、一匹の狐がこれを騙してやろうと、美しい女性の姿に化けました。
それはもう、絶世の美人という言葉のよく似合う美しい姿に化けましたから、この男は自分に惚れ込んでしまうに違いないと狐は思いました。それを利用して騙してやろうという魂胆でしたが、予想に反し、男は狐の姿を見ても多少驚いた程度でした。そうして、どうやら狐が出るという話も知らないらしく、まったく警戒せずに話しかけてきました。
曰く、妻が病に倒れてしまい、看病しても薬を飲ませても弱っていくばかり。そんなある日、この森に生えている薬草がどんな病も治す万能薬になるという話を聞き、はるばるやってきた。しかし自分にはその薬草がどれかわからないから、もし知っていたら教えてほしい、と。
男の話を聞きながら、この人間は狐に騙される前に人間に騙されたのだと、狐は思いました。この森に長らく住み着いている狐たちも、そんな薬草の話は聞いたことがありませんでしたから。おそらく、嘘の情報に少なからずお金を払わされたのだろう、と。
狐はこの男をかわいそうに思い、案内をしてやることにしました。しかし、いくらかわいそうでも、ないものは出てきません。薬草などこの森にはないのです。狐は迷いに迷った挙句、自分たちが体調を崩したときにかじる草を教えました。少なくとも体に悪いものではないだろう、と。
何も知らない男は何度も狐に感謝して、これで妻と死に別れずに済む、子供も母を失わずに済む、と、たいそう喜びました。いたたまれなくなった狐は、何か自分にできることがあれば助けになってやろうと思い、男の住んでいる場所を聞き出しておきました。そうして、男が帰ってしまった後で、あの草は人間に毒だったりはしまいか、もし自分が悪意を持って騙したと思われたらどうしよう、などと、ぐるぐる考えるのでした。
さて、昨夜は祖母に聞いた・・・狐の類の神様の話でしたが。同じく祖母から聞いた話で、もっと昔話らしい狐の話を思い出したので、それをお話します。祖母はあまり狐の類を好いてはいないようでしたが、何も嫌っていたわけではありませんでしたから。
そういうわけで狐の話です。とある森には狐がたくさんおりまして、彼らは森に迷い込んでくる人間を化かすのを楽しみにしておりました。よく話に言われるように、人の姿に化けたり、幻を見せたりして、森に入り込んだ人間を迷わせてやったり、穴にでもはめてやったり、土や草を食わせてやったりして遊んでいたわけです。そうして驚いてきょろきょろしたり、化かされたことに気がついて怒ったりする愚かな人間たちを見て、狐たちは笑いあうのでした。
さて、その日もまた森に入ってきた人間がおりました。何かを探すように歩き回る男・・・という、狐からしたらずいぶん面白い相手で、一匹の狐がこれを騙してやろうと、美しい女性の姿に化けました。
それはもう、絶世の美人という言葉のよく似合う美しい姿に化けましたから、この男は自分に惚れ込んでしまうに違いないと狐は思いました。それを利用して騙してやろうという魂胆でしたが、予想に反し、男は狐の姿を見ても多少驚いた程度でした。そうして、どうやら狐が出るという話も知らないらしく、まったく警戒せずに話しかけてきました。
曰く、妻が病に倒れてしまい、看病しても薬を飲ませても弱っていくばかり。そんなある日、この森に生えている薬草がどんな病も治す万能薬になるという話を聞き、はるばるやってきた。しかし自分にはその薬草がどれかわからないから、もし知っていたら教えてほしい、と。
男の話を聞きながら、この人間は狐に騙される前に人間に騙されたのだと、狐は思いました。この森に長らく住み着いている狐たちも、そんな薬草の話は聞いたことがありませんでしたから。おそらく、嘘の情報に少なからずお金を払わされたのだろう、と。
狐はこの男をかわいそうに思い、案内をしてやることにしました。しかし、いくらかわいそうでも、ないものは出てきません。薬草などこの森にはないのです。狐は迷いに迷った挙句、自分たちが体調を崩したときにかじる草を教えました。少なくとも体に悪いものではないだろう、と。
何も知らない男は何度も狐に感謝して、これで妻と死に別れずに済む、子供も母を失わずに済む、と、たいそう喜びました。いたたまれなくなった狐は、何か自分にできることがあれば助けになってやろうと思い、男の住んでいる場所を聞き出しておきました。そうして、男が帰ってしまった後で、あの草は人間に毒だったりはしまいか、もし自分が悪意を持って騙したと思われたらどうしよう、などと、ぐるぐる考えるのでした。
更新日:2021-08-09 21:26:51