よくぞいらっしゃいました。嬉しいです。
　・・・あの、本当ですよ。もしいらしてくだすったら何を話そうか考えていたのですが、ともかく怪談話といえば幽霊であろうと、幽霊の話を用意しました。それに、この話は私自身の体験も少しありますし。
　・・・さて。どう話し始めればいいのやら。
　・・・。
　自殺の名所、と聞いて思い浮かべるところはありますか？あまりいい話題ではありませんが。どこかの樹海だとか、湖だとか、崖だとか、滝だとか・・・あるいは、岬だとか。これからするお話は、とある岬の話です。
　場所は・・・ええと・・・細かい位置は失念しました。ここから比較的近い場所だったはずです。車でも使えば一、二時間ほどで着くのではないですか。わかりませんが。いえ、場所などどこでもいいのです。
　・・・その。私は実際にそこに行ったことがあるのですが、なかなかいいところでしたよ。後で知ったことによればいわゆる心霊スポットというもののひとつでもあるそうなのですが。私はそういった感覚に乏しいのか、悪いものも感じませんでした。
　話によれば、幽霊が人を引き込むのだとか、なんらかの念が人を飛び込ませるのだとか。ただ観光に来ただけでも、何か悩みがあると引き込まれるように自殺をしてしまうのだそうですよ。青い空に美しい海、聞こえるのは心地いい水の音ばかりという場所で、たしかに最期にはふさわしかったかもしれません。たしかに、死ぬのならああいう場所がいいでしょうね。知人が同行していたので、早まったことは考えませんでしたが。
　問題はその知人です。この人は失礼な人で、この人に言わせれば、私は妙なものに好かれやすいのだそうです。おせっかいな人で。たまには旅行にでも行こうかと考えている、と話しましたら、わざわざ見張りのようについてきたんですよ。どこで何に引っかかるかわかったものじゃない、と。散々失礼なことばかり言って。
　・・・。
　まあいいでしょう。それで、その知人とともにその岬や周辺の町を散策したのですが。そこで、例の岬には夕方になると黒髪の女性の霊が出て、人を引っ張り込む、というような話を聞きまして。興味を持ったのですが、そんな場所には行くなと知人にきつく言われまして。案の定、お前は絶対に引き込まれる、と。
　・・・。
　私の目当てはその岬でしたから、ともかく夕方になる前に観光して宿に戻ったのですがね。とてもいい場所でしたよ。夕暮れ時の景色も美しかったでしょうに。
　まあ過ぎたことを言っても仕方ないです。ええ。・・・はい。