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8月5日 ねえさま

 ・・・。こんばんは。
 いえ、その、少し考え事を・・・。
 ああそういえば。はじめにお話ししたのは、岬の幽霊の話でしたね。だとすると、あの人のことは少し話題に出しましたか。
 少し知人のことを思い出していました。もうしばらく会っていないのですが・・・まだあの人は私のことを気にしているのでしょうか。
 まあともかく・・・この知人が体験した話でもいたしましょう。人のことを妙なものに好かれるだのなんだのというくせ、あの人もそれなりに妙なものを見ているのですよ。
 さて。終始知人というのは少し話しにくいやもしれませんし、かといって勝手に名前を出せば叱られるやもしれませんから・・・まあここで何を話そうが、あの人には知りようがないのですが。イニシャルにしましょうか。苗字にしますか、名前にしますか?・・・どうでもいいことですね。苗字にします。Kという人です。
 このKとは高校時代からの知り合いです。とてもおせっかいな人で、そのせいで知り合い、ずるずると縁が続いていたような形です。べつに放っておいてくれたってよかったのですが。まあそのおかげで助かった部分もあるのであまり文句ばかりも言えません。それに・・・いえ、そんなことはどうでもよろしい。本題に入りましょう。
 さて、話は五年前に遡ります。忘れもしないある秋の日、あの人から連絡がありまして。はっきり覚えています、金曜日の夕暮れ前でした。緊急らしく電話で。それで、あの人らしくもない焦った様子で、ちょっと力を貸せと、そういうような話でした。あの人が私を頼ったのはあれが最初で最後でした。いつも私には何か強気な態度でしたけど。
 そういうわけで呼び出されてみれば、案外平気そうでした。どれだけ弱っているのか少し楽しみに・・・。・・・なんでもありません。ともかく、泣きつかれるどころかほとんどいつも通りに対応されただけでした。結構なことです。はい。
 どうしてわざわざ私を呼び出したのかといえば、何やら不思議なものを見て、これからどうするべきか考えあぐねているので、私に意見を求めてきた、というようなことでした。あの人の中では私はオカルト知識が豊富ということになっているのです。実際のところ、軽い趣味程度にしか知りませんけど。まあそれはおいておきましょう。そういうわけなので、何があったかを話されました。これが今夜のお話です。前置きが長くなりましてすみません。

更新日:2021-08-05 21:05:46

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