・・・あの。
　・・・。あなたも夕涼みですか？ここはいい場所ですから。川の近くは涼しくていいですね。
　・・・昼に来ても綺麗な場所なんですよ。水が澄んでいて。
　ええ。
　・・・その、あのですね、いきなり話しかけて申し訳ないのですが。なんといいますか、その、あまり怪訝な顔をなさらないでください。私はけして怪しいものではありません。そう言うのは得てして怪しいものだと相場が決まっておりますが・・・いえ、そんなことは今は関係ありません。私はけして怪しいものではありません。本当に。
　・・・。
　その、ただ、お暇ならお話でもいたしましょうかと・・・それだけです。夏ですから、怪談の類でも。どこかで聞いた話やら、何かで読んだ話やら、少しですが私の体験やら。そういうものが好きなので・・・。
　先に名乗るべきでしたでしょうか。私の名前は浦凪ミコト、です。命と書いてミコトと読みます。あまり一般的な名前ではないかもしれません。名前だけ聞いて女性だと思われたこともありますが、実際はこの通りの・・・いえ、まあ、私の名前はもういいでしょう。どうでもいいことですから。
　・・・はい。なんでしたか。
　ああそうです・・・それで、もしあなたがお暇なれば、私は毎日ここに参りますので、何か怪談話をしましょうか、と。
　・・・はい。それだけです。
　いえ、その、人と話すのはあまり得意ではないもので。それに、今は突然話しかけたものですから。突然話しかけられたあなたもお困りでしょうが、私も困っています。いえ、戸惑っているという方が正しいでしょう。今のところ困りごとはありませんから。何か頼みたいというわけではなく、単にお話がしたいだけです。
　・・・。
　・・・あの、はい。妙なことを口走ったやもしれません。すみません。そのうち話にも慣れると思いますので、少しは改善されるかと。おそらくは。
　この通りなのでおわかりかと思いますが、あまり話はうまくありません。無理にとも言いません。もしもお暇であれば、いらしてくださると嬉しいです。毎晩だいたい同じ時間にこの川辺に参りますので。気が向いたときにでもいらしてください。お待ちしております。