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第10章

夏になり、ホリーが休暇で家に帰ってきていた。
ジェマとホリーはルイスの所有物を整理しているのだった。

先だった家族の持ち物を残された者が整理をする過程では、時々拷問のような苦しみを味わうものだ。
それをなるべく軽くしてあげたいと、ホリーは母を手伝うことにしたのだった。

ルイスは長年座ってきた自分の椅子に腰かけて二人の会話を聞いていた。
二人の悲しみが伝わってくる反面、彼女らの自分への愛で満たされた時間に幸福感を味わっていた。

すると誰かが隣に来た。

“誰だね? そうか僕を迎えにきたんだね”
“そろそろいいだろうと思ってね”
“うん、僕もそう思うよ。やることは全部終わったから。
ひとこと二人にさよならを言わせてくれ”

ルイスはジェマとホリーのそばへ行き二人の手を取った。
二人は一緒にルイスの写真を見ているところだった。

「お母さん、お父さんが笑っているわ。この写真と同じような顔をして。
もう行かなければならないんですって」

ジェマは一瞬泣きそうになったがそれを抑えて言った。

「解ったわ、あなた。あなたが笑っているように私も笑っていましょう。
私たち忙しくて一緒にいる時間が少なかったわね。
でもこの数週間、私はあなたが私のそばにいて下さるのをいつも感じていたのよ。
きっと私がだいじょうぶになるまでそうしていてくださったのね。どうもありがとう、ルイス」

「ありがとジェマ、ありがとうホリー」

そしてルイスは二人の手を一つに重ねると離れていった

更新日:2021-07-27 16:17:21

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