官能小説

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嵐の前兆

 二月。卒業まであと僅かだというのに、うちのクラスは過激な運動を続けていた。千五百メートルの持久走をするというのだ。
今では中級市民の僕と村澤も、体力的には下級市民のままだ。もっと正確に言えば、二人は最下位なのである。鈍臭いという形容がぴったりだと我ながら思った。
 早々に走り終えている青野・佳恵・笹生たちは、のんびり座って
「がんばってえ!」
と声を掛けてくれていた。これが有り難いようで実は恥ずかしく、また情けない。女子の前で、顔をひん曲げ、倒れそうな姿を見せ続けているのだ。
「やっぱり、あいつらにちんこ蹴ってもらおうぜ。」
と村澤。
「僕もやっぱり女子の便器になりたい。」
と僕。
「馬鹿野郎! 喋るな! 距離、増やすぞ!」
先生の怒号が飛んだ。
結論。体育は嫌いである。男女、体育にして席を同じくすべからず。
上のような意見を後でぼやいたら、女子連に
「何でそんなに女子に負けたくない訳?」
と青野。
「負けたくなければ、勝てばいいのよ。便器にまで堕ちたいって、どういう心理?」
と佳恵。
「でも、男子が全員女子の奴隷って、平和な社会かもよ。性犯罪も暴力事件もなくなって。」
 その笹生の言葉に佳恵が敏感に反応し
「そういうの、男子だけのせいじゃない。」
 笹生は
「まあ、痴女も居るみたいだしね。」
佳恵は被害者なのに、小薗江を思い浮かべて庇っているのだ。そもそも、フェオソフィエワさんに誘惑されて小薗江も狂ったのだから、確かに発端には女性がいたと言えるのかも知れない。
 小薗江は、三学期になっても学校に姿を見せなかった。怪我の実際を知っているのは僕たち数人だけの筈だし、その原因も知らされてはいなかったのだが、自分で気にしているのだろう。
 だが、これは別に、小薗江と全く没交渉だったことを意味しはしない。
 僕と青野、それに佳恵は、小薗江の自宅をときどき訪ねていたのである。

更新日:2021-07-29 08:18:31

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