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第5話 それぞれの思い

  …ゴゴゴゴッ、…

 漆黒の闇の中に光る星々の中を、一体の
 モビルスーツが通り過ぎていく。
 やがて全身各所にあるバーニアのノズルからその
 噴射が尽きるように停止、そしてそれが何度か
 乾いたような音を立てると、機体はその動きを
 止めた。

  「コロニー『フロンティア』、こちら
  『リトルボーイ』…まもなく工廠エリアに着く。
  内部へのハッチを開いてくれ」

 そのモビルスーツのコックピットに収まっている
 のは、フレームレスの眼鏡をかけた若い男性で
 あった。
 彼はパイロットスーツは着用しておらず、
 グレーのツナギ風の作業着の上に同色の
 ジャンパーを羽織っているだけであった。

  (こちらコロニー・フロンティア。いまハッチを
  開く)

 まもなく相手からの通信が入ってきた。
 それは若い女性の声であった。
 やがて前方のメインスクリーンの隅に、相手の
 顔が映し出される。

  (おかえりなさい!…どうだった?)

 そこに映るのは、長い金髪のどこか性格が
 明るそうな女性であった。

  「バッチリだ。…こいつ、なかなかの性能だった
  ぜ!」

 その男性…ディーロ・ナーマッドは、嬉しそうに
 ニッと歯をみせた。

  (そう?『ガンダム』って名がつく機体は、やっぱ
  高性能なのね)

 …そのモビルスーツは、かつて一年戦争で活躍した
 地球連邦軍の高性能モビルスーツ、
 「RX-78-02」、「ガンダム」の姿に酷似した機体で
 あった。
 しかし、その頭部にあるV字型のアンテナのほか、
 もう二本突き出したアンテナがあり、肩部には
 「フィン」と呼ばれる装甲が突き出ている。
 また、全身各所にはバーニアがあり、それは
 戦闘時の姿勢を制御するために装備されたもの
 であった。
 さらに機体は従来のものよりも一回り小さめ
 にみえる。
 おそらくは、モビルスーツそのものの「小型化」
 (※ダウンサイジング)を図ったものなので
 あろう。

  シュンンッ、ハアァーッ…

 頭部の口にあたる、への字型の部分が左右に開き、
 中から人の鼻と口のようなレリーフが現れ、
 さらにその口の隙間から何かが放出された。
 さながらそれは…人間が落ち着くように大きく息を
 吐く様に似ていた。
 同時に肩部にあるフィンが一瞬だけ輝きを放ち、
 やがてそれが肩部の装甲内部に収納された。

  「なんでこんな機体を…ほったらかしにしたの
  かな…」

 ディーロはサブスクリーンのそばにある
 制御用のスイッチを弾きながら、ゆっくりと前方に
 迫るコロニーをみやった。
 …そこは、既存のコロニーの宙域にある、新たに
 建設された、「フロンティア」と呼ばれるコロニーで
 あった。
 現地では日々、主に戦争兵器に使用された多くの
 テクノロジーが利用され、コロニー建造など
 宇宙開発事業のために必要な新たな技術を
 次々と生み出していた。
 また、同時に民間のコロニーとしても使用されて
 おり、まもなくその専門の教育機関が開校されよう
 ともしていた。

 やがてディーロの目の前に、このコロニーの
 一角にある、兵器開発の工廠エリアが近づいて
 いた…。

更新日:2023-06-12 13:08:46

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機動戦士ガンダム R191 特別編 / 物語を紡ぐもの