官能小説

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シンデレラナイト

「バーってとこに行ってみたいんだけど、連れてってくんない?」
 きっかけは睦の小さなおねだりだった。だが、言われた雄吾にとっては、その一言は人生最大の爆弾も同然の破壊力を示した。
「ど、ど、ど、どうして!? バーって、どうして!? 睦、いつも、居酒屋じゃん」
 声が裏返り、持っていたカップの中でコーヒーが踊る。睦は足をパタパタ動かしながら、俯せのままポテトチップスを食べている。
「んー、何となく」
「何となくって!?」
「何かさー、色々混ぜて、シャカシャカするの、飲んでみたいんだよなー」
「だったら、俺がやるし。色々買ってきて、シャカシャカするし。俺の実家に行けば、父さんのバーカウンターがあるから、そこなら一式あるし!」
「えー、プロがやんのを見たいんだってばぁ」
「けどさ、そんなの、だってさ」
 慌てふためいて言葉すら浮かばなくなってきた雄吾を睦は一瞥し、いつもはキラキラしている目を眇めた。
「俺に合わせたくない奴でもいるのか?」
「いやいやいやいや」
 全力で雄吾は首を振った。全力すぎて、眉毛が飛ぶんじゃないかと思うほどだったが、雄吾の眉はいつも通りの場所に恰好よく収まっている。
「そんな奴いないよ。全然いない」
「じゃぁいいじゃん」
「だけどさ、だけど、けど……」
「あー、やっぱ、俺に知られたくないことがあるんだ、今も」
「ないないないない。絶対にない」
「じゃぁ、いいよな? どの店にするかは選ばせてやるからさ」
 唇の端にポテトチップの粉をつけ、屈託のない笑顔で微笑まれたら、雄吾に断る理由はなかった。

     ☆

 雄吾の行きつけと言う店は、目立つところに看板が出ているわけでもなく、黒ずんだ壁と同じ色に黒ずんだドアがある、一見すると空き家のように見えた。ただ、ドアの脇に楚々と咲く花はきちんと手入れされていて、かろうじてここが放置された空き家ではないと示しているが、バーと知らなければ素通りしている。
 ドアの前に立った睦は、「で?」と後ろに立つ雄吾を振り返って尋ねる。雄吾は硬い表情で頷き、睦の肩越しに腕を伸ばして、ドアを押した。
「いらっしゃい」
 中はカウンターとボックス席が二つの小島りした店で、マスター一人で切り盛りしているらしい。
 時間が早いせいか、店内に客はおらず、カウンターの中から店のマスターがグラスを拭きながら声をかける。
「どうも……」
 ぼそっと呟いた声を聞きつけ、顔を上げたマスターは、持っていたグラスを慌てて置いて、カウンターから飛び出してきた。
「ゆーごーーーーー! 久しぶりじゃないかーーーーー」
 赤銅色に焼けた肌をして、短く刈った鼻髭と顎髭が綺麗に繋がった、一見、ワイルドな容姿の男が、全力で雄吾に抱きつくのを見て、睦はどう対処したらよかったのだろう。
 何が起こったのかと呆然と見ている前で、マスターが雄吾の頬に唇を近づける。雄吾も抵抗するそぶりもなく、両腕を力なく開いたまま、されるがままになっている。
 当然の顔をして密着する態度に、怒りがわき上がる。
 反射的に、睦はマスターの膝に、横から蹴りを入れた。
「うが!」
「気易く雄吾に触んじゃねーよ」
 蹴られた膝を押さえ、マスターが睦をじとりと見る。
「あ? 誰、これ」
 これ、と言われた睦は、無言でマスターを睨む。間に挟まれた雄吾は、ようやく呪文が解けたように頭をぶるっと振り、とってつけた笑顔を浮かべた。
「あの、睦、俺の、その、ツレ。こっちはこの店のマスター、睦」
 紹介されたら、一応、愛想良くしないと礼儀に反する。睦はしぶしぶ睨みを半減させて、軽く頭を下げた。つられて頭を下げたマスターは、顔を上げるなり、両手を叩いた。
「あぁ! 雄吾の姫!」
「姫じゃねーーーーって!」
 一番嫌な呼び名で呼ばれ、即座に睦の頭が沸騰する。きつい目でマスターを睨み、今にも殴りかかりそうな睦を慌てて抱き止め、雄吾は愛想良く笑った。
「えぇ、そうです。一度、来てみたいと言われて」
「お前の行きつけって、こういう店ばっかりかよ!」
「ここも普通に美味しいお酒を出す店だって」
「けどな!」
「マスターが作るカクテルは、絶品だから。帝国ホテルのバーに引けを取らないくらいなんだよ。ね、マスター」
 腕の中で暴れる睦を抱き締めたまま、雄吾がにっこりとモデルスマイルを浮かべる。マスターは慎重に睦と距離を取り、容易に飛びかかれない距離を確保する。
「あ……あぁ、うん、まぁ、そう言われたりもする……かな……どうぞ」
 マスターがカウンターの中に入ったのを確認し、ガウガウ唸ってる睦を引きずって、雄吾はカウンター席に座った。

更新日:2021-04-17 00:51:37

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シンデレラナイト【雄吾x睦 その7】 R-18