官能小説

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不安な未来も夢のうち

「またもし必要になったら、一言いえよ。」
 新年の集会後、作造は豊作にそう言った。大学再進学をやめにしたという豊作の話を聞いてのことだった。動画配信による収益化のことも同時に豊作から聞いたので、進路を変えたことについて特に作造は意見もしなかった。豊作にはそう思われた。しかし、作造は、心の中で、金銭に息子が困っていたら、いつでも助けてやろうと決めていたのだった。
 恒産無ければ恒心なし、の裏返しで、恒産のある豊作には目下のところ恒心があった。自分で金を稼いでいるという自負が自信になって、人に明るく振る舞えた。幼いアーシュラに至っては、もうそれだけで人生が安泰でハッピーになったかのように信じていた。ただ、これが本当の仕事だろうかと、豊作には一抹の不安が頭から離れない。不安癖が身に付いてしまっているのだと、度胸の無い自分を恥ずかしくも思うのだった。
「豊作!」
 母親に呼ばれた豊作が、声の方に目をやると、母親の隣に青年が立っている。豊作はすぐ気が付いた。
「こちら、ソジュンさん。ソジュンさん、息子の豊作です。初めてよね。」
 豊作は、自分と雰囲気から顔つきまで、まるでタイプの違う青年に戸惑ったが
「初めまして。よろしくお願いします。」
と挨拶した。ソジュンも
「キム ソジュンです。よろしくお願いします。」
と挨拶し、手を差し出した。握手をした二人は、複雑な互いの関係にほとんど気持ちが向かなかった。これは恐らく、この場のせいだったろう。二人だけでなく、作造の意識も豊子の意識も、ここに居合わせた者の心の半分は、組織に向いていたからである。それは、志を同じくする者同士の共通の意識だった。
「豊作はソジュンさんの二つ上なのね。いやだ、あたしってそんな歳!」
 おどける豊子に、豊作もソジュンも笑いを誘われた。
 ソジュンは、気持ちが大変おおらかになっている自分を感じていた。豊作とも上手くやっていけると素直に感じられた。同じ祈りを祈ったのだと思うと、過去の自分や豊作の過去も、よその話のように思われた。

更新日:2021-03-31 13:20:42

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