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イタリアの日記

ある日、魔女ソワンボワーズは、

ぼんやりと物思いにふけっていた。

はるか古えの、むかしむかし魔女が、

「ヴァイオリンの美少女」

だったころを思い出したのである。

それから、遥かなる遠い年月が経過し、

いまのソワンボワーズに、

かつての面影は、あるだろうか。

魔女はぼんやりと

少女時代にかつて書いた

ありし日の想いでの日記を開き、

ぱらぱらとめくってみた。

すると、あどけなかりし日々の、

遠い記憶が、

うっすらと蘇ってくるようだった。

日記のページを、

しだいに夢中でめくるにつれ、

魔女の頬には、かつての少女と同じような

紅のいきいきとした光がさし、

瞳には、夢見るような憧れの色が、

うっすらと浮かぶようだった。

◆5月22日(日)

私はきょうから、日本をはなれてイタリアへ行く。

国際しんぜんのためである。

あそびに行くのではない。

だが、これは、めったにないめずらしい経験だから、

くわしく日記をつけようと思う。

さて、本当は、5時におきて、

とても早いうちに家を出るよていだったのだが、

いろいろ用事ができて、家をでるのが、

おそくなってしまった。

だから、私と父は、一足先に出発した。

成田空こうからは飛行機だが、

それまでは電車で行く。

電車のえきにつく少し前に、

やっと母がおいついてきた。

それから電車にのったのだが、

それはそれは時間がたつのが

長ったらしく思われた。

何度ものりかえて、やっと成田空こうについたのだが、

飛行機が飛びたつまでには、

2時間半も、時間があった。

―それより少し前に、Uさんといっしょになった。

Uは、私たちの名と同名だが、

まったくのぐうぜんで、本当は他人である。

そして、また、それより少し前に、

父とわかれた。

―まず、パスポートを見せて、

飛行機にのるきょかをもらうのに、

ものすごく時間がかかった。

そして、のこりの1時間ほどは、

あたりをけんぶつしてすごした。

飛行機に入るには、

それにとりつけられた、くだのようなものから入る。

機内に1歩はいった時、とてもハンサムな

スチュワードさんが1人やってきて、

私のかかえているバイオリンを指さし、

Uさんに、イタリア語でなにか言った。

すると、Uさんは、

「バイオリン、どこかにそっとしまっといていい?

てきいているのよ。」

と、つうやくしてくれた。

私は、その人があまりハンサムだったので、

さっとわたしてしまった。

更新日:2021-03-21 09:12:39

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