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小説

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四日目

 あの変なやつに出くわしてから、ミコが訪ねてきた以外には特に何もなく、またミコにあれこれ聞くこともなく、ひと月近くが経った。その頃にはもうあの変なやつのことなんかほとんど気にしちゃいなかった。世の中変わったやつはいるもんだし、ああして馴れ馴れしく人と話すような妙ちきりんなのがいたっておかしくはない。ミコにも特に変わった様子はないし。
 そろそろ八月も半分ほどが過ぎ、休み明けの試験も近づいてきたせいか、ミコが勉強をしようと言い出した。ついでに、よくわからないが俺の家に入ってみたい、らしい。少しはこいつと親しくなることができたようだ。
 あれから、何かあるときはできる限り俺が寮まで出向いていくことにしている。あんな風に妙なのに絡まれたらこっちまで困る。相手が人間でもまあ困るが、もし人間でない何者かだとすれば、俺の悪い予感が的中することにもなりかねない。
 そんなわけで、今日もミコを迎えにいってやり、家まで連れて行く。ミコは少しだけそわそわしているようにも見えた。どれだけ居座る気か、教科書だの問題集だのを大量に持ってきたんで、鞄を預かってやる。最近はミコの方でもすんなり俺に荷物を預けるようになった。こいつなりに少しはこっちに歩み寄る気になったらしいが、自分で持てる程度の量に収めるという発想はないんだろうか。
「で、今日は何しようってんだ」
 ずっとだんまりなのも居心地が悪いんで、話しかけてみる。ミコはこっちを向かないまま答えた。
「勉強ですが」
「それはわかってる。どの教科だよ」
 今度は返事がない。
「決めてないわけだ」
 そう言ってやると、ミコは黙ったまま上目遣いにこっちを見た。図星らしい。それはべつにかまわないが、話題が早くもなくなった。こっちから何がやりたいってのもないし。
 さてどうするか、と考えていると、ふと行く先の人影に気がついた。誰かを待っているように立ち尽くしているそいつは、たぶんひと月前のあいつだ。顔なんかをはっきり覚えているわけではないが、あの雰囲気はなんとなく覚えている。
 なんとなく気まずい気分になりながら、ミコの様子を窺ってみる。特に変わった風でもないが、気がついていないのだろうか。
 わざわざ回り道をすることもないだろうし、そのままあいつに近づいていく。向こうの方でも特に反応はない。あいつにしろミコにしろ、あれだけ長々と喋ってたのはなんだったんだろうか。関係のない俺が一人で気にしているのが馬鹿らしくなってくる。
 そうしてそいつの目の前を通ったとき、視界の端でそいつはにやりと笑った。あの日、俺の目の前に来たときと同じような妙な笑み。
 ちらりとそっちに視線をやったが、依然そいつはこっちを気にしないで、暇そうな顔で立っているばかり。見間違いか?それにしてははっきりと見えた気もする。どちらにせよ、こっちからは関わらない方がいいだろう。

更新日:2021-03-07 18:26:08