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小説

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三日目

 翌日。夏休みになったといっても特にやることはないんで、昼まで寝ているつもりが、弟に叩き起こされた。
「んだよ」
 舌打ちしながら起き上がると、弟も負けず劣らず不機嫌な顔で言う。
「なんか来てるよ。兄ちゃんの知り合いっぽいやつ」
「あ?」
「兄ちゃんいるか聞いてきたから、いるって言っちゃったよ。まさかまだ寝てると思わなかったし。お前早くしろよ」
 寝ぼけた頭で考えてみるが、訪ねてくるようなやつは思い浮かばない。どうにか無視できる相手ならいいんだが、と弟に聞いてみる。
「どんなやつだった?」
「なんか陰気くさいメガネ」
 雑な調子で答える弟。それで誰が来たのかは察した。
「・・・あの野郎」
 ちらっと時計を見れば、午前十時。なんでまたこんな早くに来やがったんだ。まあ、あいつからしたら別段早い時間でもないのかもしれないが。それにしてもせめて事前に連絡をよこせばいいものを。
 最低限の身支度だけして玄関へ行く。ミコはやけに姿勢良く突っ立って待っていた。手には大きめの茶封筒を持っている。
 こっちをじろじろ見ているが、一向に喋りださないんでこっちから話しかけてやった。
「どうしたよ」
「あの・・・」
 何か言いたいことがあるらしいのはわかったが、後が続かない。ミコは何か怪しんでいるような顔で、口を小さく動かしている。話す準備はできていないらしい。仕方ないんでちょっと待ってやる。
 ミコはしばらくまばたきを繰り返していたが、やがて口をきゅっと結んだ。伏せられていた目がほんの少しだけ上を向く。相変わらず目は合わないが。
「で、どうした?」
 もう一度聞くと、ミコは急に自信なさげになって言った。
「お誕生日だったと聞きました」
「・・・おう」
 言われてみればたしかに一昨日は俺の誕生日だ。毎年べつに祝うこともないんですっかり忘れていた。しかしなんで今になって、それもわざわざ家に訪ねてきてそんなことを言うんだろう。だいたい、こいつに誕生日も家の場所も教えた覚えがない。
 何から言ったもんかよくわからず、ミコの方でも困った顔のまま立ち尽くしている。お互いじっと相手の様子を窺うばかり。なんだこれ。
 少しの間そうしていると、背後で弟の呆れた声がした。
「・・・入んないの?」
 そこでやっと我に返る。どうやら様子を見に来たらしい弟は、俺に隠れるようにしながらミコのことを見ていた。
「弟さんですか」
 珍しくミコが人の顔を見ながらしゃべる。ただし、俺の方でなく弟の方。人の顔を見たら見たで、食い入るようにじっと見るもんで、弟が若干怯えている。
「で、何しに来たんだ、お前」
 あからさまに嫌な顔をする弟とおかまいなしのミコがなんだかもう見ていられず、とりあえず話を振る。この際細かいことは気にしてないで、とっととこの場をおさめなくちゃならない。
「どうぞ」
 ミコは俺の方に視線を向けて、持っていた封筒を差し出してきた。どうしても目は合わない。受け取ると、ミコはなぜかゆっくりと一、二歩後ろに下がって、俺がどうするのか探るように眺めだす。なんなんだ、これ爆発でもすんのか。

更新日:2021-02-23 20:25:35