• 31 / 45 ページ

七日目

「もしもし?」
 声をかけてもしばらく返事はなかった。それでなんとなく相手は察して、とりあえず二度目の声をかけてみる。
「あー、もしもし?」
「はい」
 予想通り、ミコの声が返ってきた。連絡くらいよこせ、と言ったのが通じたらしい。電話にも慣れていないのか、また妙な間が空いてから、なぜか声を潜めて名乗る。
「・・・浦凪です」
「おう。どうした?」
 またちょっと黙るミコ。一旦呼吸を整えたらしい音がしてから返事があった。
「本日そちらへ伺ってもよろしいでしょうか」
「べつにいいよ。迎えに行くから待ってな」
「午後からにしてください」
 慌てたらしく、こっちの言葉にかぶさる勢いでミコが言う。用事でもあるんだろうか。聞いてみたっていいんだが、答えが返ってくるかもわからないし、話が長くなってもなんだからやめておいた。
「わかった。じゃ、何時くらいに行きゃあいい?」
「まだわかりません」
 続く言葉を待ったが、ミコの方ではこれ以上に何も言わない。仕方ないんでこっちから提案してやる。
「じゃあ、そろそろ来いってくらいにまた電話しな。それでいいな?」
「はい」
「よし、じゃあそういうことで」
「お願いします。では」
 それで電話は切れた。ふうと息を吐いて、また眠気を感じながら時計を見れば、午前九時を少し過ぎたくらい。休みも終わるから寝坊はやめるつもりが、もうこんな時間だ。昼過ぎてないだけまだマシっちゃあマシだが。
 二度寝はやめておくことにしたが、特にやることもない。とりあえず飯を食っておくことにして、着替えて台所へ向かう。何か適当に食えそうなもんがあったか考えていると弟が来た。
「お前にしちゃ早いじゃん」
 顔を見るなりそう言ってくる。
「ミコから電話がきたかんな。今日の午後あたり来たいとさ」
「えー、またぁ?」
「いいだろべつに」
「だって、あいつ僕のことじろじろ見てくるんだよ。何もしてないのにさ」
 弟は不満げに口を尖らせた。この間機嫌を悪くしてたのも、どうもミコがじろじろ見ていたせいらしい。あいつは弟に興味があるんだろうか。そんなことを思いつつ、弟がまだ何か愚痴を言っているのをぼんやり聞きながら食パンをかじる。
「焼いて食べなよ」
 呆れたように言う弟。
「めんどい。お前はもうなんか食ったのか?」
「まだ。僕の分もちょうだい。ちゃんと焼いてね、あとジャムかマーガリンね」
「自分でやれよ、ほら」
 食パンを二枚渡してやると、弟はそれをトースターに放り込んでから冷蔵庫を漁り始めた。何を塗るか悩んでいるのか、なかなか閉めずにがさがさやり続けている。

更新日:2021-04-27 20:21:02

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook