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六日目

「トバリ・・・それ苗字?名前?」
 電話の向こうで呼子がとぼけた声を出す。
「知らん。それしか聞いてない」
「ふーん。どんなやつ?」
「あー」
 やっぱり知り合いでもなんでもないらしい、と、驚きもせずに考えながら、やつのことを説明しようと試みた。だが、あんまりおかしなやつなもんで、どう話せばいいのかよくわからない。
「たぶん背はお前と同じくらいで、なんというか・・・よく喋ってよく食べる、妙なやつ」
「何それ」
 からから笑う呼子。
「心当たりないのかよ」
「いまんとこない。ま、実際会ってみないとわかんねーや」
「そいつとこの辺一緒に歩いてて、俺のこと話したらしいけど、そっちに覚えは?」
「いや?この辺の知り合いはだいたい同じ中学だったやつだし、それならお前も知ってると思うんだよね。高校の友達は・・・まあ連れてきたことはあるけどさ。あー、でも俺んとこの生徒ではなさげ。トバリって聞き覚えないし」
 いまいち頼りにならない答えだが、ともかく、トバリと呼子に接点はないようだ。それなら、どうしてあいつは俺や呼子のことを知っていたのか。どこまでも気味の悪いやつだ。
「そいつと連絡取れる?取れそうなら、俺会ってみるけど」
 さすがに気になったのか、呼子がそんなことを言う。
「俺は無理だ。ミコなら連絡先も知ってるかもしれない」
「そっか。ま、ミコちの知り合いなら平気なんじゃね?そんな悪いやつじゃなさそうなんでしょ、たぶん」
「どうだかな」
「えー不穏」
 軽い調子の呼子。勝手に知り合いを名乗られて、気持ち悪くないんだろうか。それとも、ちょっとした知り合いなら大勢いるから気にならないんだろうか。元から楽観的なやつではあるが。
「なんかわからんけど、お詫びしなくちゃかもしれんし、今度の水曜空いてる?久々に遊び行こうぜ、俺おごるし」
「あー」
 別段用事もないが、トバリが呼子のことを知っている以上、この状況であんまり関わるのも気にかかる。まだ何がどうなったわけでもないが、あの怪しいやつが今後どう行動するかわからないのだ。何かあったときに、呼子を巻き込むわけにはいかない。
 そんなわけで答えを迷っていると、部屋の扉が乱暴に叩かれた。というか、弟が蹴りつけたようで、でかい音が響く。
「悪い、なんか来た」
 そう言うと、呼子にも聞こえていたのか半笑いの声が返ってきた。
「了解。じゃ、あとでメールでも送っといて」
「ん」
 電話を切った途端、やはり乱暴に扉が開き弟が飛び込んできた。見るからに機嫌が悪く、玄関の方を指差して吐き捨てるような調子で言う。
「またあのメガネ。あいつなんで人のことじろじろ見てくんの?」
「知らん。本人に聞け」
「は?ふざけんな」
 一人で怒りながら、わざわざ足音を大きく立てるようにして自分の部屋へ帰っていく弟。どうにもミコと相性が悪いらしい。あんなに機嫌を損ねなくてもいいだろうに。それとも、よっぽどミコの振る舞いがおかしかったのか。

更新日:2021-03-23 21:08:40

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