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小説

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一日目

「いつまでやる気だよ」
 そろそろ閉館時間も近いというのに、机には数冊の本が積まれている。さっき様子を見に来た時には二、三冊程度にまで減っていたのに、こんな時間になって新しいのを探してきたらしい。おそらくは借りていくつもりだろうが、それならきりのいいところでやめにして早く帰ればいいものを、何を思ったかさっきとは違う本を読み始めている。そんなに寮に帰りたくないのだろうか。それともここの居心地がいいだけか。なんにせよ、ここに居座るわけにもいかない。
「もうそろそろ帰るぞ。今何時だと思ってんだ」
「時計がないので」
 ミコの返事はそこで途切れた。そんなことは知らない、と言いたいらしい。一応こっちを向いて喋っているだけこいつにしちゃマシな方だ。
 壁にかかった時計を指し示してやったが、ミコはそっちを見もしない。気が付いていなかったのが悔しいのか、それとも知っていてわざと時計がないなんて言ったのか、こいつの考えていることはいまいちわからない。
「お前なぁ・・・」
「図書館ではお静かに」
 涼しい顔でそう言うと、ミコは積んである本を抱え、危なっかしい足取りで歩き出した。十冊近くある本は分厚いものが多く、こいつには重たいらしい。それは本人にもわかったはずだし、こっちに少し持たせればいいのに、どうにか足元に視線をやりながら一人で運ぼうとしている。いつもながら強情なやつだ。
「そら、貸せ。借りてくんだろ、こんだけの量」
 少し渋っている様子のミコから半ば強引に本を受け取り、カウンターがどこにあったかを思い出そうとする。が、ミコがさっさと歩いて行ってしまうので、それについていくことにした。ミコはここによく来るらしく、カウンターやら本棚の位置やらはすっかり頭に入っているようだ。
 一番上に積まれた本に目を落としてみると、なにやら民間伝承についてのものだった。さっき見ていたのは怪談だか都市伝説だか知らないが、怪しげな話が大量に載っている本。おそらく他のも似たようなものだろう。
「またやってんのか」
 声をかけても、ミコは返事どころか振り向くことすらしない。こいつはいつもそんな調子だ。知り合ってからだいたい一年くらいになるが、こいつが変わったやつだというのは嫌というほどよくわかっている。
 貸出手続きを済ませ、ミコの鞄に本を入れる。いい加減受け取りたそうな顔をしていたが、重いものを持たせて転ばれても困るので俺が持っておくことにした。さっきみたいにふらつきながら歩かれちゃこっちが気になる。
「もう寮まで帰るんだろ」
 そう聞きながら図書館を出た。ミコはこっちを見てはいるが返事はない。こういう風な時はだいたいこっちの言っていることを肯定している時で、どうやら特に訂正がないから黙っているらしい。実際、寮のほうへ歩く俺の横に並んで歩いている。
「で、何か面白い話は見つかったのか」
「ひとつ」
「例の神様の話か?それとも別の話か?」
 今度はミコの返事はない。顔を見ると少し眉をひそめている。
「何の話だ?」
 もう一度聞くと、ミコはしばらく考え込んでからやっと答えた。
「儀式です」
「儀式?」
 そこでまた会話が途切れる。べつに興味があるわけでもないし、それ以上は特に聞かなかった。ミコから話しかけてくることも滅多にないので、お互いに黙ったまま歩く。その間ミコはずっと俺の持つ鞄を見ていた。よっぽど本が読みたいらしい。
 寮まで着くと、ミコは不服そうな表情で俺の顔を見上げた。本を返せと言いたいらしい。鞄をよこすとひったくるようにして受け取り、まだ何か言いたげにじろじろと俺を見ている。
「そんじゃ、また明日。それ返しに行くときゃまた言いなよ」
 ひらひら手を振ってやると、ミコは軽くうなずいて寮に入っていった。なぜだか最後まで表情は変わらなかった。本当によくわからないやつ。

更新日:2021-02-23 20:22:21