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12 信じている

「……」
 丸二日も部屋に籠っていると、身体が重たくなってくる。もうノブさんは討伐部隊を作って、出発してしまっただろうか。他のみんなも待ち切れなくなっただろうか。ずっと、部屋から出ないわたしに呆れているだろうか……。
 ネガティヴな妄想ばかりが膨らんでいく。
 今のわたしを見たら、怒るだろうな……サンクレッド。目を閉じると、今でも鮮明に覚えている。あの日のことを。
 
 五年前。トメラの村の最長老を初めとする、村の偉い人たちがわたしたちの処分について話した。
 そして……。
「我々ドワーフ族の掟に従い、あやかとぷぅこの二人を永久追放の処分とする!」
 村の人たち全員が集まる中で最長老が宣言した。一族の掟。それは家族以外の他人に素顔を見せてはいけないということ。今回の騒動でわたしとぷぅこはお互いの素顔を見てしまった。そして、助けてくれた人たちにも……。
 一人は私たちと同じ顔立ちの女の子だった。他の村に住んでいるドワーフ族だろうか。黒と白のメッシュの髪色、真っ黒なコートや靴、そして背中に背負っている大剣。彼女がもしかしたら……闇の戦士なのかもしれない。
 けれど、彼女より……。
 わたしはもう一人のほうに釘付けだった。白の髪に真っ白のコート、背中に背負ったガンブレード。わたしとぷぅこを助けてくれた彼の名はサンクレッド。
 かっこいい……かっこよすぎる!
『二人とも、大丈夫か?』
 助けてくれた時の声もカッコよかった。さっきから胸のドキドキが止まらない……。
「あやかは私を守ってくれたんです! どうか、追放処分だけは……」
 隣に立っていたぷぅこが必死にお願いしていた。離れたところではお母さんがわたしたちのほうに駆け寄ろうとしていたけれど、他の村人たちに止められていた。
 お母さん、ちゃんと掟を守れないダメな子でごめんね……。離れ離れになるけど、心はずっと一緒だから。だから、そんなに泣かないで……。
 わたしは拳を握り、最長老のほうへ視線を向けた。
「最長老さま、そもそも村へ飛び出したきっかけを作ったのはわたしです。追放処分は甘んじて受けます」
「あやか……」
 ぷぅこは泣きながらわたしのほうを見た。そんな彼女を安心させるために笑いかける。
「約束したじゃない、ぷぅこ。一緒に星空を見に行こうって。ぷぅこを一人になんかさせないよ」
「掟破りの裏切者! 早く出ていけ!」
「そうだ! そうだ!」
「臆病者! 卑怯者!」
 村人たちの罵り声が響き渡る。言われて当然だよね……わたしがバカだった……。
「おい」
 鋭い声が村の出口のほうから聞こえてきた。誰が言ったのかすぐわかった。
 ガンブレードを肩に担いだサンクレッドがわたしたちの方に向かって歩いてくる。その威圧感を受けたせいか、罵っていた村人たちが静かになった。
「大切な友のために、そいつは命がけで守って戦ったんだ。お前ら、それを裏切者など、臆病者など、よくも言えたな。こいつらはこの狭い世界から新しい場所へ踏み出そうとしているんだ。立派な勇気を持つこの二人を見送ってやることも出来ないのか? 罵る資格なんて、お前らにない」
「ぶ、部外者が口を挟むな! これは古より続く我々一族の掟だ!」
 最長老がそういうと、また村人たちが「そうだ! そうだ!」と声をあげる。
「まったく、頑固な奴らだなぁ」
 サンクレッドは肩をすくめて、わたしとぷぅこのほうを見た。
「ここは騒がしいな。二人とも、とりあえず外に出よう」
「はい」
「……」
 わたしは返事をしたけど、ぷぅこは何も言わずに頷くだけだった。村の出口へ向かう前に横目で後ろを見た。罵倒を浴びせるみんなの中でお母さんだけは何も言わずに手を合わせて祈っていた。戻ってきてほしいのか、それとも、わたしたちの無事を祈っているのか、もう直接聞くことは出来なかった。
 さようなら、お母さん。わたしを産んでくれて……ありがとう。
 心の中でそうつぶやいて、村を出た。
 

更新日:2021-02-03 20:01:15

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