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10 厭な人の助言

 ノブさんと話した後、私と牧さんは他の人のところに行って意見を聞いた。けれど、具体的な解決策は思い浮かばなかった。
 二人を仲直りさせて、みんなで大罪喰いを討伐する。
 みんなの気持ちは同じだった。きっとあやかさんとぷこさんも同じ気持ちだろう。力になりたい……けれど、どうすればいいのか、わからない。
 いくら考えても答えは見つからなかった。
 空は光に包まれていて明るかったけど、時刻はもう夕方ごろになっていた。朝からずっと町中を歩き回って、話を聞いていたので、さすがの私も牧さんも疲れていた。
「ちゃんちー、今日は疲れたし、居住館で休もう」
「……そうだね」
「何だ? 面白いことをしているな~と思って観察していたのに、もう終わるのか?」
 ふと、背後から声が聞こえてきて後ろに振り返る。声の主はゆっくりとした足取りで私たちのほうに向かって歩いていた。
「エメトセルク……」
 隣にいた牧さんが警戒を強める口調で言った。そう、彼の名はエメトセルク。しばらく前に私たちのことを見物すると言ったオリジナルのアシエン。神出鬼没のアシエンを監視し続けることは難しいし、私たちと戦おうとする意思も感じ取れなかったので、ノブさんたちと話し合った結果、放置するという結論になっていた。普段、私たちに話しかけることがない彼がどうして……。
「やれやれ、ちょっと前に忠告しておいたつもりだったんだけどな。所詮はなりそこない。心に余裕がないと伝え方を誤り、衝突してしまう」
 誰のことを言っているのか、何となくわかった。
「ぷこさんたちの事を見下すような言い方をしないでください」
「おやおや、これは失敬。癇に障るようなことを言ったつもりはないがな」
「何の用だ?」
 肩をすくめるエメトセルクに牧さんが聞いた。
「なぁに、仲間同士のトラブルを解決しようと四苦八苦してる二人組がいたからな。面白そうなので、見学していたのさ。ま、朝早くから時間をかけた割には充分な成果は得られなかったみたいだがな」
 何か嫌味を言われたような気がして、ムッと口を引き結んでエメトセルクを睨みつけた。
「お~怖い怖い。ただでさえ信用されていないようだから、私の言葉を聞くだけでも不満か?」
 そう言うと、エメトセルクは薄笑いを浮かべていた表情を元に戻した。
「せっかくだ。私からも一つ良いことを教えておいてやろう。お前たちが他者から意見を聞くのは正解だ。だが、肝心なことを忘れている。今、すれ違いを起こしているあの二人について知らないことがあるだろう」
「知らないこと?」
「本人の口から思いを聞いていないことだよ。特にあの娘のほうの」
 そう言いながら、彼がペンダント居住館のある部屋を指さした。その方向にあるのはぷこさんの住んでいる部屋だった。
「ぷこさんの?」
「もう一人の娘とどうして親しい友人になったんだ? あの二人はどこの出身だ? 過去に何があった?」
 エメトセルクは私と牧さんのほうに向きなおった。
「これらの謎に全て答えることが出来るのか?」
「それは……」
 私は何かを言いかけてやめた。いや、やめたんじゃない。答えられなかった。あやかさんもぷこさんもコルシア島の村で住んでいたことは知っていたし、今回みんなから話を聞いて、サンクレッドさんが二人を保護してこの町に連れてきたことがわかったけれど、どういう経緯で村を出たのか、どうしてサンクレッドさんに保護されて私たちのところに来たのか、それについては知らなかった。

更新日:2021-02-03 19:49:02

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